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転生したら孤児院育ち!? 鑑定と悪人限定チートでいきなり貴族に任命され、気付けば最強領主として国を揺るがしてました  作者: 甘い蜜蝋
蒼海に生まれた絆 ― 小さな竜

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王立魔道研究所・筆頭魔術師の来訪

このまま、1日2話更新で年内走り抜けますが、更新の時刻はまちまちになります。すみません。

読んでくださる方々ありがとうございます。どうか顔文字の評価ボタンか★マークを押してもらえるとありがたいです。

 昼下がりのハルトンは、穏やかな風に包まれていた。

 街路の蒼晶灯が光を落とし、広場では商人と職人の声が重なる。

 ダンジョンから帰還して三日。

 身体の疲れは抜けたが、まだ心はあの氷の輝きを覚えている。


「……さて」

 俺は領主館の執務机に腰を下ろし、書類を整理していた。

 討伐報告、戦利素材の受領書、そして王都宛の報告書。

 どれも完璧にまとめてくれたのはミーナだ。

 彼女は隣でさらさらとペンを走らせている。


「三十五層突破……こうして書くと、まだ信じられないわね」

「現実だ。あの竜の冷気、もう一度浴びたいとは思わないけどな」

「ふふっ、それは同意」


 笑い合った、その時だった。

 扉の外から、慌ただしい足音が響いた。


「領主殿っ! 王都からの使節が――!」

「またか」

 アリアがドアの向こうから顔を出す。

「王族とか言わないでよ。前に来た時のあの礼儀作法講座、もうごめんだからね」


「残念だが違う。――今度は“魔道研究所”だ」

「え?」

 ミーナが手を止めた。

 その瞳が、わずかに光る。

「王立魔道研究所の……?」


 外で角笛が鳴る。

 そして、扉が開かれた。


 入ってきたのは、漆黒のローブをまとった一人の女性。

 銀の髪が腰まで流れ、瞳は紫紺に輝いている。

 手にした杖の先では、淡い蒼光が絶えず瞬いていた。


 彼女は一目で“只者じゃない”と分かった。


「初めまして、辺境伯トリス=レガリオン殿。

 王立魔道研究所・筆頭魔術師、セレナ・ヴェルティナです」


 声音は冷ややかだが、不思議と耳に心地よい。

 知性と魔力の気配が混ざったような、張り詰めた雰囲気。


「筆頭魔術師……?」

 アリアが小声で呟く。

「やば、王国最高峰の天才魔女が来ちゃったじゃん」

「おい」俺が目で制するが、セレナはくすりと笑った。


「構いません。私のことは“セレナ”と呼んでください。

 形式よりも実験と理論が優先ですから」


 言葉の端々から漂う自信。

 だが、それは驕りではなく、確固たる成果を積み上げた者の響きだった。


「さて、本題に入りましょう」

 セレナは杖を軽く振り、空中に蒼い魔導陣を浮かべる。

 その中心に映し出されたのは――氷亜竜フロストレギオンの魔核、レギオンコア。


「これはあなたの報告を受けて再現した物ですが、あそこの小さい竜の子にあげた核ですね?」

「ああ。俺たちが三十五層で討伐した竜の核と同じだな」

「驚異的な安定度だったようです。通常、竜種の核は短時間で崩壊しますが……この映像の核は完全に沈静化している」


 セレナの瞳が、ミーナへと向いた。

「理由は、あなたの魔導干渉制御ですね」


「……私の?」

 ミーナが目を瞬かせる。

「はい。あなたが《蒼環の理》を使って、周囲の共鳴を中和した。

 その結果、核の魔素が暴走せず、形を保ったまま安定化した。――これは前例のない現象です」


 ミーナが息を呑む。

「……偶然、かと思ってたけど」

「偶然ではありません。

 あなたの理論は王立研究所の記録を五つ塗り替えたわ。

 だから、正式にお願いに来ました」


 セレナはゆっくりと歩み寄り、書簡を差し出した。


「ミーナ・エイル。

 あなたに、“王立魔道研究所ハルトン支部”の設立を任せたい。

 私は本部から派遣された監督官として、その立ち上げを支援します」


「……わ、私が……支部長?」

「ええ。あなたの探究心と理論体系は、もはや学術的に独立している。

 『研究所があなたに追いつく』――それが陛下と私の一致した見解です」


 部屋が静まり返った。

 ミーナは手の中の封書を見つめ、声を失っていた。


「すごい……本当に、任されるなんて」

「当然の結果よ」アリアが笑う。

「やっと、あんたの“頭の中”が国に認められたの」


 セレナの口元がわずかにほころぶ。

「ふふ、いい仲間を持ちましたね。

 トリス辺境伯。あなたにも協力をお願いしたい。

 次なる探索、“蒼鳴層”に関するデータを取ってきてほしいのです」


「蒼鳴層……?」

「はい。第三十六から四十層。

 以前は観測されていなかったのですが、現在、音によって蒼晶が振動し、魔力が“共鳴波”を発する異常層となっていると報告を受けており、通常の魔導計では解析不能。……あなた方しか潜れません」


「……面白そうだな」

 俺は小さく笑った。

「やる理由としては十分だ」


 ミーナが顔を上げ、瞳に火を宿す。

「支部長として、初任務にさせてもらいます。

 データと標本を必ず持ち帰るわ」


 セレナが満足げに頷く。

「期待しています。あなたたちのような者がいる限り、王国の魔導は進化を止めません」


 彼女は杖を軽く叩き、光を散らす。

 魔導陣が空に溶けると、部屋の空気が少し柔らかくなった。


「さて、私は本部へ報告に戻ります。

 準備が整い次第、研究設備をこちらへ送りますね。

 あぁ、それと」


 振り返りざまに、セレナが微笑む。

「あなた方のような“現場の魔導士”を見ると、少し羨ましくなります。

 ……やはり、私は研究室より戦場の方が好きみたいです」


 アリアがくすっと笑った。

「筆頭魔女なのに? そりゃ面白い」

「人は魔導を愛する形が違うだけですよ」

 そう言い残して、セレナは優雅に去っていった。



 その夜、ミーナは封書を胸に抱えたまま、バルコニーに立っていた。

 蒼晶塔が月光を受け、街を淡く照らしている。


「……本当に、支部長になっちゃった」

「おめでとう」

 俺が隣に立つ。

「領主としてじゃなく、“仲間として”誇りに思う」


 ミーナが小さく笑った。

「ありがとう。でも……プレッシャーもあるの」

「なら、俺が全部受け止める」

「トリス……」

 その一言に、風がやさしく吹き抜けた。


 下の庭では、ルメナが星の下で小さく鳴いている。

 アージェが見上げ、ノクスが影の中で目を光らせた。


 ハルトンの夜は静かで、そして確かに動き出していた。

 ――魔道と冒険の新たな章が、ここから始まる。



 こうして、ミーナは「王立魔道研究所ハルトン支部長」として正式に任命された。

 天才魔女セレナ・ヴェルティナの推薦と共に。

応援ありがとうございます!

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