響く迷宮の鼓動
ストックがなくなり予定通りの投稿ができてないですが、年内は2話更新だけは続けていこうと思ってます!!!
蒼晶の眠る洞・第33層。
階段を降りた瞬間、音がした。
ドクン――と、まるで大地の心臓が打つような低い音。
「……今の、地鳴り?」
アリアが眉をひそめる。
だが違った。
床に敷き詰められた蒼晶が、脈打っている。まるで生き物の血管みたいに。
「魔力の流れが異常ね……こんなの、見たことない」
ミーナが魔導計を握りしめ、青ざめた声を漏らす。
「蒼晶そのものが、地脈を吸い上げてるわ。――成長してる!」
「成長?」
「ええ。ダンジョンが、“次の形”に進化してるの!」
ノクスの毛が逆立つ。
アージェが一歩前に出て、低く唸った。
その瞬間、通路の壁が裂けた。
蒼の光が走り、無数の結晶の腕がせり出してくる。
形は歪で、顔もない。
けれどその動きは――確実に“生きている”。
「動く結晶壁……!? そんなの聞いたことない!」
「壁ごと襲ってくるとはな……。面倒だ」
俺は刀《繋》を抜く。
刃が蒼光を反射し、周囲の結晶がきらめいた。
「アージェ、前を固めろ! ノクス、右側の影を抑えろ!」
「ワン!」
「ニャッ!」
銀の障壁が張り巡らされ、結晶の腕が弾かれる。
ノクスが影に潜り、腕の根元を切り裂いた。
しかし、切断された結晶が再び伸び上がる。
「再生する!?」
「魔力循環が早すぎる! 止めないと増える一方よ!」
「ミーナ、やれるか!」
「……試してみる!」
ミーナが両手を広げ、青白い環を展開する。
空気が震え、蒼の粒子が彼女の足元に集まった。
「《蒼環の理》――循環停止!」
光が爆ぜ、足元の蒼晶が静止する。
結晶の腕の動きが鈍り、音を立てて崩れた。
「ナイスだ!」
「でも……長くは保てない! 回廊全体が反応してる!」
地面が震えた。
壁の向こうから、さらに大きな結晶の塊が動き出す。
まるで“巨人”が這い出してくるように――。
「まずい、来るぞッ!」
俺は跳躍し、刀を振り下ろす。
蒼光が弧を描き、結晶の表層を斬り裂く。
中から溢れ出たのは液状の蒼――魔力そのもの。
「……魔力の血だと?」
アリアが矢を放つ。矢は蒼い液を貫き、光の破片を散らした。
ノクスとアージェが左右から押さえ込み、ミーナが詠唱を重ねる。
「理の制御、もう一段階上げるわ! 蒼の流れ、私に合わせて――!」
彼女の身体から放たれる光が、蒼晶の脈動と共鳴した。
回廊全体が震え、結晶の巨体が痙攣する。
「トリス、今!」
「ああ!」
俺は刀を逆手に構え、地を蹴った。
蒼と雷が刃に絡み、一直線に走る。
――轟音。
蒼晶の巨体が裂け、光が弾けた。
崩れた結晶が霧となり、回廊全体に淡く降り注ぐ。
⸻
静寂が戻る。
ミーナが膝をつき、息を荒げた。
アリアが肩を叩く。
「すごかったわ、ミーナ。あれ、制御ってレベルじゃない」
「ふふ……理屈じゃ説明できないわね。
でも、感じたの。ダンジョンの“呼吸”が変わった」
「呼吸?」
「この洞窟、まるで私たちの反応を学習してるみたい。
抵抗もあったけど……同時に、観察もしてた。
まるで“試して”いるように」
ノクスが静かに影から顔を出し、アージェが尾を振る。
ルメナがトリスの肩に降り、淡い光を放った。
前方――崩れた壁の向こうで、青い光が道を作っていた。
まるで「進め」と言わんばかりに。
「……この洞、ただの迷宮じゃないな」
「そうね。意思を持ってる。
でも、それが敵か味方かはまだわからない」
俺は刀を納め、前を見た。
光が呼ぶ。
その先に、まだ誰も知らない層がある。
「行こう。ここで止まったら、全部無駄になる」
ミーナが頷く。
「ええ。“蒼の理”を、ここで完成させるために」
アリアが笑った。
「じゃ、迷宮の進化に負けないように、こっちも進化しよ」
ノクスが“にゃ”と鳴き、アージェが吠える。
ルメナが翼を広げ、蒼光が舞い上がる。
――そして俺たちは、光の道へと踏み込んだ。
迷宮が鼓動する。
まるで、生まれようとしている何かを抱えて。
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