蒼晶の森 ――鼓動する迷宮
投稿時間がまちまちになってすみません。1日2話のペースで一時期50話くらいのストックがありましたが、すでに使い切っております。毎日2話更新を年内はやっていきたいと思っております。
蒼晶の眠る洞・第三十二層。
霧が晴れた瞬間、世界が変わった。
足元に広がるのは青く透き通る地面。
光を孕んだ蒼晶が地中から生え、天井へ伸びている。
どこまでも静かで――なのに、確かに“生きてる”気配がした。
「……ここ、空気が違う」
アリアが小さく呟く。
その声すら反響して、周囲の蒼晶が淡く光を返した。
「共鳴してる」
ミーナが魔導計を構え、数値を見て眉を寄せた。
「蒼晶が魔力に反応して、空気の粒子ごと震えてるわ」
「つまり、“見られてる”ってことか」
「そう。……観察されてる気がする」
ノクスが影から現れ、毛を逆立てる。
アージェが低く唸り、ルメナの背びれが青く光った。
嫌な気配が、空間のどこかで蠢いている。
その時、地面の蒼晶が弾けた。
光が走り、細い糸のような線が周囲の結晶へと繋がっていく。
「……魔力の流れが組み替わってる!」
ミーナが息を呑む。
蒼晶の蔓が絡み合い、やがて“人の形”を作り上げた。
腕、脚、頭――すべて蒼晶の結晶でできた人影。
無表情のその“像”が、ゆっくりと顔を上げる。
「動くぞ!」
俺が叫ぶより早く、蒼晶の戦士が剣を振るった。
閃光が走り、アリアが即座に矢を放つ。
「硬っ!?」
矢が刺さらず、蒼の皮膜で弾かれる。
ノクスが影から襲いかかるが、切り裂いたはずの傷口が光とともに閉じる。
「再生した!」
「地脈の魔力を吸ってるのよ!」
ミーナの声が響く。
「止めるには、“流れ”を断たないと――!」
俺は踏み込み、刀《繋》を構えた。
刃を通して伝わる空気の震え。
蒼の環を展開する。
「《蒼環の理》――流動抑制」
足元に光の輪が広がり、周囲の魔力が静まる。
それまで脈打っていた蒼晶の輝きが、一瞬だけ鈍った。
「今だ、アリア!」
「了解!」
矢が連続して放たれ、結晶の首を砕く。
ノクスが影から突き上げ、アージェの咆哮が重なる。
衝撃で蒼晶の身体がひび割れ、光が霧散した。
残骸が粉のように舞い、静寂が戻る。
⸻
「……終わった?」
アリアが肩で息をつく。
ミーナが魔導計を確認し、ようやく表情を緩めた。
「共鳴値、低下。完全に消滅したわ。
今の《蒼環の理》、ちゃんと作用してた」
「理って……こういう使い方もできるんだな」
「ええ。もともと“流れを整える”力だけど、
過剰な循環を止めれば、逆に静止点を作れるの」
「それで再生が止まったってわけか」
「ただし、完璧じゃない。
今のは偶然バランスが合っただけ。……もっと安定させないと」
ミーナの声は冷静だが、どこか弾んでいた。
理論を立てながら、未知を解き明かしていく――彼女の得意分野だ。
「……にしても、迷宮の中で“観察されてる”感覚って嫌だな」
「わかる。息まで測られてるみたい」
アリアが苦笑した。
「でも、これでちょっとわかってきた」
「何が?」
「この洞、ただの鉱石の塊じゃない。
“何か”が意思を持って、進化してる。まるで――生きてる」
ミーナは短く頷いた。
「だからこそ、ここで理を磨く意味がある。
この洞がどう変わるかは、私たち次第よ」
ノクスが“にゃ”と鳴き、アージェが尾で雪を払うように地面を叩く。
ルメナが光を放ち、奥の通路を照らした。
蒼い光が波紋のように広がり、その奥で何かが応えるように瞬いた。
俺は刀を握り直し、微笑んだ。
「まだ先があるらしいな」
「もちろん」
ミーナが小さく笑う。
「まだ“蒼の理”は、私たちに何も教えてくれてないもの」
アリアが軽く肩を回し、矢を一本抜いた。
「よし、行こ。次の層はきっと、もっと綺麗で、もっと厄介」
俺たちは光の道を進んだ。
足元の蒼晶が、まるで喜ぶように脈を打つ。
洞の奥から流れてくるその鼓動は、まだ見ぬ何かの“心音”のようだった。
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