蒼晶の再生域
投稿時間がまちまちになってすみません。1日2話のペースで一時期50話くらいのストックがありましたが、すでに使い切っております。毎日2話更新を年内はやっていきたいと思っております。
霧の向こうに、蒼い光が脈打っていた。
呼吸するたび、肌に魔力が刺さるような空気。
洞窟が――生きている。
「……やっぱり、何か変わってる」
ミーナが立ち止まり、魔導計を握る。
普段なら後方支援に徹する彼女が、今日は俺たちと並んでいた。
「ミーナ、本当に来るのか?」
問いかけると、彼女は小さく笑った。
「今度は私も、この目で確かめたいの。
あなたたちが何と向き合ってるのか――
そして、どこへ繋がっているのかを見てみたいの」
アリアが苦笑する。
「つまり、完全に興味本位ね」
「そう言われても否定できないわ。でも、今回は戦力にもなるわよ」
「はいはい。戦う文官さん、頼りにしてる」
ミーナは魔導計を掲げ、淡い光を散らした。
「地脈の流れ、前回の記録と完全に違うわ。
……蒼晶そのものが、増殖してる」
「つまり、洞窟が進化してるってことか」
「そう。もう“鉱脈”じゃない。生命体の成長よ」
その言葉と同時に、足元の結晶が音を立てて割れた。
光の粒が舞い、影が揺れる。
「っ、来るぞ!」
アリアが弓を構え、ノクスが影へと溶ける。
アージェの咆哮が響き、《魔障壁》が前方に展開された。
蒼光を割って現れたのは――
半透明の獣。
体中を蒼晶に覆われた、四脚の魔物。
内部の光が“心臓”のように脈打っている。
蒼晶獣。
「新種……!」
ミーナが息を呑む。
「核が複数ある! しかも再生系! 通常の魔物より明らかに知能が高い!」
「分析してる場合じゃない!」
俺は刀《繋》を抜いた。
雷の気配が走る。
ノクスが《影走り》で足元を攪乱し、アリアの矢が連続で射抜く。
アージェの障壁が氷弾を受け流し、ミーナの詠唱がそれを補う。
「《蒼環の理》、流動展開!」
蒼い環が地面に広がり、魔力の流れを制御する。
蒼晶獣の動きが一瞬止まり、光が濁った。
「今よ!」
アリアが叫ぶ。
俺は踏み込み、刃に雷を通す。
蒼と金が交錯し、閃光が洞窟を裂いた。
光が収まったとき、蒼晶獣は崩れ落ちていた。
砕けた結晶が蒼い霧となり、ゆっくりと消えていく。
⸻
静寂。
息が白く揺れる。
「……見事ね」
ミーナが魔導計を下ろした。
「でも、倒したというより“止めた”感じ。
この層の蒼晶、全部で繋がってるみたい。
つまり――あれは一部にすぎない」
「一部、ね」
俺は天井を見上げる。蒼晶の光が、まるで心臓の鼓動みたいに脈打っていた。
「……なんか、生きてる迷宮って感じ」
アリアが肩をすくめる。
「けど、悪くないわね。成長してるなら、私たちも負けられない」
「そういうことだ」
ルメナが空を舞い、蒼い粉を散らす。
ノクスとアージェが静かに並び、霧の奥を睨んだ。
「ミーナ」
「なに?」
「今回、連れてきて正解だった」
そう言うと、彼女は小さく笑った。
「でしょ? 次の層ではもっと役立つつもりよ」
霧の奥が揺れ、扉が開く。
蒼い光があふれ出し、奥へと誘う。
俺は刀を握り、仲間たちを振り返った。
「――行こう。第32層、進入開始だ」
光が彼らの影を包み込み、蒼晶の洞は再び脈打ち始めた。
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