氷冠の祭壇 ――蒼き血の残響
評価ポイント押してもらってたり、最後に親指グッドとかの数が増えてたり、ランキング情報が日々出てきてワクワクしてます。ただ、投稿スピードが異常なのでこっそり修正もしております!ごめんなさい。
空が、氷の中にあった。
頭上を見上げると、白銀の天蓋の向こうに
まるで凍りついた空が、静止していた。
そこが、“氷冠の大聖域”。
封域の中心にして、古代より王家が触れてはならぬとされてきた禁域だった。
氷の大地は半透明に輝き、光が底から滲み出している。
それは地脈ではない。
魂の光だ。
歩くたび、足元の氷が脈を打った。
心臓の鼓動と、同じリズムで。
「……息が、苦しい」
ミーナが囁く。
空気そのものが魔力の奔流だ。普通の人間なら、肺が凍りつく。
だが、トリスの身体には熱が満ちていた。
胸の奥で、何かが呼応している。
それは封印でも、呪いでもない。
血の記憶。
「トリス、見て!」
アリアの指差す先。
氷の中央に立つ、巨大な石棺。
十数メートルにも及ぶ封印碑が光り、淡い蒼の風が吹いていた。
棺の表面には、王家の紋章。そしてその下に、もう一つ。
帝国の印。
ふたつの国が重なった紋章は、この世にひとつしかない。
「もしかして……トリスの、ご両親?」
ミーナの声は震えていた。
トリスは無言で前へ進む。
棺の前に立ち、刀《繋》の鞘で氷の表面を軽く叩いた。
音が返る。澄んだ鈴のような響き。
そして、光が広がった。
蒼と金の粒子が、空へ昇る。
氷の天蓋が透き通り、上空に“過去の空”が投影された。
そこにいたのは
二つの影。
黄金の鎧をまとい、黒髪を束ねた男。
その背には、トリスと同じ形の刀。
そして隣には、白銀の髪を持つ女性。
その瞳は、海のように深く、優しい光を宿していた。
『……来たのね』
女性の声が、風に混じって響いた。
幻ではない。意思の残滓。
肉体は失われても、魂がこの地に刻まれている。
『私たちは、この地で魔王の1部を封じることができた。この氷冠そのものが、魔王の心臓を閉ざす棺。』
声が聖域に反響する。
氷壁が鳴き、天蓋が震えた。
『いつか、血の継承者が現れると思っていたわ。
……あなたが、トリス?』
トリスの胸が熱を帯びた。
足元の氷が蒼く光り、掌の紋が共鳴する。
「父さん……母さん……?」
声が震える。
影の男が、穏やかに頷いた。
『私の名はダリウス・マグヌス。
帝国皇弟にして、王国の盾。
そして、お前の父だ。』
隣の女性が微笑む。
『私はセリナ・エルディア。
王の妹であり……あなたの母。
トリス、あなたが生きていることが、私たちの祈りの証よ。』
氷の大地が共鳴した。
封印が彼らの言葉を受けて震え、天から雪が降る。
それは冷たくなく、まるで祝福のように温かかった。
『我らは魔王の心臓をこの地に封じた。
だが、それは終わりではない。
“理”は歪み、やがて世界を侵す。』
『だから、お前に託す。
血ではなく、意志で選べ。
この世界を、どう生かすかを。』
言葉が消える。
光の粒が弾け、影は風に溶けた。
氷冠の光が弱まり、静寂だけが残る。
⸻
しばらく、誰も動かなかった。
アリアもミーナも、ただ黙って見つめていた。
トリスは膝をつき、拳を握った。
「……ずっと、何かを探してた気がする。
でも今、わかったよ。俺の力も、血も、全部――生きるためにあるんだ。」
ミーナがそっと近づき、微笑む。
「あなたがここまで来たのは、偶然じゃない。
“雷”と“蒼”は、いつか世界をつなぐ。
……その中心に、あなたがいるのよ。」
ルメナが肩の上で鳴き、ノクスが影を寄せた。
アージェが低く吠え、氷の空気が震える。
トリスは立ち上がり、刀《繋》を抜いた。
刃が光を受け、天蓋に反射する。
「父さん、母さん。あなたたちの封印、必ず護る。
だけど俺は、俺の道を進む。
血じゃなく、意志で繋ぐために。」
光が呼応するように、祭壇が動き出した。
氷が割れ、奥へ続く道が開かれる。
その先から、淡い鼓動の音が響いた。
「行こう。ここが“終わり”じゃない」
アリアが頷き、ミーナが微笑み、従魔たちが続く。
トリスの背に、淡い光が宿る。
その光は、二つの国が託した希望の炎だった。
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