月下の告白
評価ポイント押してもらってたり、最後に親指グッドとかの数が増えてたり、ランキング情報が日々出てきてワクワクしてます。ただ、投稿スピードが異常なのでこっそり修正もしております!ごめんなさい。
宴の喧噪は、まだ港に響いていた。
笑い声、音楽、杯の音――熱気から少し離れた桟橋だけが、別の世界みたいに静かだ。
潮風の中、俺は杯を置いて海を眺めた。
肩の上ではルメナが丸くなり、足元ではノクスが尻尾をゆっくり揺らしている。
その時だった。
「トリス辺境伯殿」
背後から低い声。振り返れば、紺の外套に金の紋章。王国直轄の使者だ。
「陛下がお呼びです。今宵、内密に王城へ」
胸の奥がざわめく。この夜に、王直々に?
人混みの向こうで、ミーナがこちらを見る。目が合うと、小さく頷いた。
俺はルメナを乗せ直し、港を後にする。
⸻
夜の王都は、光そのものだった。
聖翼の塔が空を切り裂くようにそびえ、魔導灯が石畳を淡く照らす。
黄金の門をくぐると、胸の鼓動がひとつ強く跳ねた。
「陛下は奥の間で」
重い扉が開く。
月明かりの差す窓辺に、国王アルトリウス・エルディア。
玉座ではない。外套も脱ぎ、ひとりの男として海を見ていた。横顔は、英雄よりも父に近い。
「久しいな、トリス」
柔らかな声。
「頭を上げなさい。今夜は臣下ではなく、“ひとりの人間”として聞いてほしい」
息が止まる。
「南の海を取り戻した。見事だ」
「皆のおかげです」
「そう言うと思っていたよ」
王は微笑み、杯を差し出す。
「祝いだ。……だが、それだけではない」
短い沈黙ののち、王の声が深くなる。
「トリス。“レガリオン”という名を、名乗っているな」
「はい。陛下から賜り、恐れ多くも誇りに思っています」
「古くは、王家の縁を示す名でもある」
王の瞳に月光が宿る。長い年月の影がそこにあった。
「トリス。お前の父は、ダリウス・マグヌス。帝国の皇弟にして《覇剣術》の正統継承者。
剣だけでなく、戦場を読む“策剣”に長け、奇襲・機先を制することにかけて右に出る者はいなかった。
母は、セリナ・エルディア。私の妹だ。
温雅にして聡明な魔導士。“収魔”の才で魔力を巡らせる器に長け、仲間の力を束ねることに秀でていた」
時間が、止まった。
「……母上が、陛下の……?」
「ああ。帝国の剣と、王家の魔。二つの血は“平和を架ける橋”になるはずだった。
だが、魔王との戦で二人は倒れ、残されたお前は、多くの国の標的になり得た」
王は静かに続ける。
「だから私は、お前の出生を封じた。
お前の才を隠すため、“鑑定”から血統が読めぬよう、スキルの一部に遮断封を施した。
孤児院に託したのは、私自身だ。
そして、近衛騎士長であったアリアの父に護衛線を引き継ぎ、アリアには“同年代の友”として傍にいてもらった」
視界が揺れる。
何も知らずに、ただ生きてきた。
けれど、胸の奥でずっと刺のように残っていた違和感が、今ようやく形を得た。
「俺は、誰かのために強くなりたかった。
その“誰か”が、今わかった気がします」
王は頷く。
「力は血筋のためにあるのではない。
“守る”と決めた瞬間に、本物になる。
お前は、もうそこにいる」
ルメナが肩の上で小さく鳴いた。大丈夫だよ、と言うみたいに。
王は封書を差し出す。
「次の波が来る。北の氷原、“封域”が揺らいでいる。古の竜が目覚めた。
雷を継ぐ者として、お前の意志が試されるだろう」
俺は深く息を吸い込む。
「必ず応えます。父と母に恥じぬように」
「それでこそ、レガリオン」
王は穏やかに微笑む。
「そして、私の妹の子としても、な」
⸻
王城を出ると、夜空は澄んでいた。
港の方角からは、まだ宴の音。アリアの笑い声、ミーナの歌声。
ルメナが翼をひらめかせ、月を見上げる。
「……俺の血、か」
呟き、拳を握る。
けれど胸の奥は、不思議なほど静かだった。
「この力が“誰のもの”でもなく、“俺の意志”で使えるなら――それでいい」
風が吹き、月が波を照らす。
その光は、遠い二人の手のように、俺の背をそっと押した。
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