海の光、名はルメナ
評価ポイント押してもらってたり、最後に親指グッドとかの数が増えてたり、ランキング情報が日々出てきてワクワクしてます。ただ、投稿スピードが異常なのでこっそり修正もしております!ごめんなさい。
潮の流れが、おかしい。
さっきまで穏やかだった海が、急にざわめき始めた。
「……トリス、これ、来るわよ」
アリアが弓を引く。
ミーナが眉をひそめて海を覗き込む。
ノクスが影を逆立て、アージェが低く唸った。
帆をなでていた風が止まり、海面が鏡みたいに静まる。
その静けさのあと――
ドンッ、と海が爆ぜた。
黒い水柱が立ち上がり、うねるように長い影が現れた。
蛇。
いや、もっと太い。船のマストほどある胴が波を裂き、牙の生えた顎が陽光を反射した。
「シーサーペント……!」
ミーナの声が震える。
だが、それより俺の目を引いたのは――奴の尾に絡め取られていた、小さな青い影だった。
翼を持った、小さな竜。
体長は子どもの腕ほど。鱗は薄青に光り、胸のあたりが赤く染まっている。
「おい……血を流してる!」
「捕まってるわ、助けないと!」
アリアが矢を番える。
俺は即座に指示を飛ばした。
「アージェ、防壁を前へ! ノクス、右舷の影を繋げ! ミーナ、潮を押し返せ!」
命令と同時に、仲間が動く。
銀狼アージェが咆哮を上げ、海面に銀の壁を広げる。
ノクスが影を走り、蛇の視界を奪うように揺らめく。
ミーナの蒼環が光り、潮流が逆巻いて敵の体を押し戻した。
俺は刀《繋》を抜き、雷を纏わせる。
海面に足場ができたような錯覚とともに、前へ飛び出した。
「離せぇぇぇッ!」
稲光が走る。
シーサーペントの尾を断ち切るには至らないが、筋肉が痙攣し、反射的に小竜を放す。
「アリア!」
「了解っ!」
アリアの矢が空気を裂き、光の矢筋が傷ついた竜を弾道上に誘導する。
ミーナが魔力を伸ばし、潮の腕のように受け止めた。
間一髪。
小さな竜が甲板に落ちると同時に、アージェの障壁が再び前に出て、蛇の突進を弾いた。
ノクスがその頭を飛び越え、鋭い爪で片目を裂く。
シーサーペントが怒りの咆哮を上げ、海全体が震える。
「トリス! もう一撃いける!?」
「もちろんだ!」
俺は刀を構え、雷を流し込む。
刀身が白く輝き、海を縦に裂く。
「《雷閃》――ッ!」
稲光が爆ぜ、海面が真っ白に染まった。
シーサーペントが悲鳴のような音を上げ、身体をくねらせながら深海へ沈んでいく。
嵐が去った。
⸻
「……ふぅ。なんとか、なったか」
俺は息を整えながら、甲板に横たわる小さな竜を見下ろした。
海色の鱗。
金の瞳。
呼吸は弱いが、生きている。
「まだ動脈まではいってないわ。止血できる!」
ミーナが蒼環を光らせ、掌を竜の胸にかざした。
蒼い波紋がゆっくり広がり、血が潮のように消えていく。
「頑張れ……もう大丈夫だから」
彼女の声に応えるように、竜が小さく鳴いた。
“キュルゥ……”
その声は信じられないくらい柔らかくて、胸の奥が温かくなる。
「……かわいいな」
アリアがぽつりと漏らす。
「戦闘中に言うことじゃないわよ」
ミーナが笑いながらも、目元が緩んでいた。
竜はゆっくりと瞼を開け、俺たちを見つめた。
怯えている……でも、逃げようとはしない。
俺はしゃがみ込み、掌を差し出した。
「もう大丈夫だ。ここは安全だぞ」
竜は少し迷ったあと、俺の指先に鼻先を触れさせた。
温かい。鼓動が、ちゃんとある。
「名前、つけてあげたら?」
アリアが微笑む。
「ルメナ、なんてどう? “海の光”って意味」
「……いい名だ」
俺は竜の頭を軽く撫でる。
「今日からお前はルメナだ。俺たちの仲間だ」
“キュルッ”
ルメナは小さく鳴いて、嬉しそうに尾を揺らした。
ノクスが影から顔を出して鼻を寄せ、アージェがその周囲で守るように座り込む。
仲間たちの輪に、新しい命がひとつ加わった。
⸻
夕暮れ。
海は静まり返り、蒼い光が波間でゆらめいていた。
「……不思議だな」
俺は空を見上げながら呟く。
「命を奪うより、ひとつ救う方が、ずっと難しいのに……こんなに心が軽い」
「うん」
ミーナが微笑む。
「だからこそ、私たちがやるのよ。守るって、そういうことでしょ」
アリアが笑って拳を突き出す。
「じゃ、次の航路も行こうぜ。雷伯さん?」
「やめろ、その呼び方」
「にゃっ」
ノクスの鳴き声と、ルメナの“キュルッ”が同時に響いた。
潮の匂いと笑い声が混ざり合い、
帆の向こうに光る虹が、まるで祝福のように輝いていた。
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