宰相との密談――雷の盟約、刻まれる
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披露宴の翌朝。
王都の空は、昨日の喧騒が嘘みたいに澄んでいた。
蒼翼城の上層、宰相塔の執務室。
俺はそこに呼び出されていた。
「辺境伯。昨日は見事な反応だったな」
低い声とともに、オルヴィウス宰相が現れる。
銀糸の衣、長い杖、目の奥には常に計算がある。
「反応、ですか?」
「“サプライズ王命”の直後に動じない貴族など、そういない。
……民を見てきた者だけが、ああいう顔をできる」
「褒め言葉として受け取っておきます」
「受け取れ。褒めているのだからな」
――怖いタイプの褒め方。
オルヴィウスは机の上の地図を指でなぞる。
ハルディア港の名が、もう刻まれていた。
昨日王が宣言したばかりなのに、もう書き換え済みとか早すぎだろ。
「本題に入ろう。
ハルディア港の自治権――王国直轄ではなく、辺境伯領の管轄とする。
ただし条件がある」
「条件?」
「軍事介入の禁止。王都の許可なく港を武装化してはならぬ」
まあ、当然だ。
ただミーナがすぐさま口を開いた。
「ですが、防衛隊は必要です。治安維持すらできなければ、交易港は成り立ちません」
宰相の目が、興味深そうにミーナを見た。
「……君が代官のミーナ・エイルか」
「ええ。書類の山を愛してやまない女です」
アリアが小声で「違う意味で愛してると思う」と茶々を入れる。
オルヴィウスが小さく笑った。
「いい。では防衛は“民兵組織”として認可しよう。王国軍の派遣費は免除だ」
「助かります」
ミーナが素早くメモを取り、次の交渉へ。
「税制についても確認を。交易収入の一割を王国に納め、残りは港の再建資金へ回します」
「ふむ。妥当だな」
「そして――王国のお抱えの商会との取引は対等条件に」
「……対等?」
「ええ。辺境伯領は下請けではなく、パートナーですから」
宰相の眉がわずかに動いた。
一瞬の沈黙――そのあと、くぐもった笑い。
「……実に面白い。
王都の商会は嫌うだろうが、私は好きだ。下から国を押し上げる力が」
よし、通った。
⸻
「それともう一つ」
オルヴィウスの声が少し低くなった。
「昨夜、陛下が言った“照らす雷”。あれを、法に刻む」
「法に?」
「うむ。王国憲章第七章、自治領の独立条項に新たな一文を加える」
彼は巻物を取り出し、読み上げた。
『辺境伯トリス=レガリオン、及びその領土ハルディアは、
王国の南門として雷の理を担う。
その雷は、破壊に非ず、照明と守護の象徴とする。』
――雷の盟約。
法文にしてはやけに詩的だが、胸の奥が熱くなる。
アルトリウス王の想いを、宰相が形にしてくれたのだ。
「……ありがとうございます」
「礼を言うのはまだ早い。責任も一緒に付いてくる」
「承知しています」
宰相が頷く。
「雷よ。国を焦がさぬように――だが、時には鳴らせ。
民が怯えぬよう、敵が侮らぬようにな」
その言葉のあと、静かな沈黙が流れた。
執務塔の窓から、昼の光が差し込む。
ハルディア港の海図が、白金の光に照らされていた。
⸻
「……さて、書類仕事はミーナに任せるとして」
俺が立ち上がると、ミーナが即座に抗議した。
「ちょっと!勝手に任せるな!」
「得意分野だろ?」
「得意でも限度があるの!」
アリアが笑いながら割って入る。
「じゃあ私は、港の視察に行くわ。潮風恋しいし」
「仕事から逃げる天才がここにもいた」
ノクスが肩で“ニャー”。完全に悪ノリ。
オルヴィウスが咳払いをして、最後に言った。
「辺境伯。王都の貴族たちは、君を“雷の英雄”と呼び始めている。
だが、私は違う呼び方をするつもりだ」
「……なんですか?」
「“雷の執政”――統べる力を持った雷だ。
君の本質は、戦よりも“築く”にある。忘れるな」
その言葉が、不思議と胸に残った。
⸻
塔を出ると、午後の日差しが街を染めていた。
石畳の上を歩きながら、アリアがぽつりと言う。
「ねぇトリス。ハルディア、ほんとに新しい国の形になるかもね」
「なるさ。王が信じてくれたんだ。今度は俺たちが“見せる”番だ」
ミーナが苦笑しながら帳簿を抱える。
「じゃあ私は、数字で見せるわ」
「俺は行動で」
「私は弓で!」
「ノクスは……おやつで」
“にゃふ”と返ってきた。満場一致。
遠くで雷鳴が一度だけ響いた。
晴れた空に、光の筋が一瞬だけ走る。
それはきっと、誓いの証。
“照らす雷”が、この国の未来を導くための。
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