王都へ!
評価ポイント押してもらってたり、最後に親指グッドとかの数が増えてたり、ランキング情報が日々出てきてワクワクしてます。ただ、投稿スピードが異常なのでこっそり修正もしております!ごめんなさい。
ハルトンダンジョン都市・朝
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朝の鐘が三回鳴った。
街中がちょっとしたお祭りみたいにざわついている。
パン屋は朝から焼き増し、鍛冶場では新しい鎧の試作品を叩いている音。
子どもたちが旗を振って騒いでいた。
どうやら「辺境伯さまを見送る会」らしい。……誰が考えたんだ、これ。
「なんか、すごいことになってない?」
アリアが苦笑しながら市場を見渡す。
野菜の籠の上には“祝・出立”って書かれた布。
「完全に祭りね。あなた、王都行くだけなのに」
「いや、俺もびっくりしてる」
笑いながら返すと、ノクスが肩の上で“ニャ”と鳴いた。
「ほら、ノクスも言ってる。『やれやれ』って」
「翻訳うまいな」
「伊達に付き合い長くないもん」
そんな冗談を交わしていると、鍛冶場の奥から豪快な声が響いた。
「おーい! トリス!」
火花の向こうから、フレイアが現れる。
手には布で包んだ何かを抱えていた。
「来たねぇ、“雷の辺境伯”さんよ」
「だからその呼び方やめてくれ」
「ふふ、まぁいいじゃない。似合ってるよ」
フレイアは笑いながら、包みを開いた。
中には新しい鞘。
《繋》のための、銀色の装飾が施された鞘だった。
「燃えにくい素材で作っといたぞ」
アリアが笑いながら肩を竦める。
「前のやつ、電気で焦がしたもんね」
「お前も一緒にいたろ」
「だって面白かったし」
「面白がるな」
笑い合う二人を見て、フレイアが目を細める。
「いい顔してる。戦い終わって、ちゃんと人間の顔に戻った」
「そう見えるか?」
「見えるさ。だからこそ、行ってこい。“人を導く雷神様”としてね」
「雷神様はやめてくれー」
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昼過ぎ、領主館の前。
荷車がずらりと並び、馬たちが鼻息を鳴らしている。
ミーナが書状の束を片手に、きっちりとした服装で現れた。
「トリス、積み込みは終わった?」
「ああ、だいたい」
「“だいたい”って言葉、禁止にしたい」
ミーナが眼鏡を押し上げてため息をつく。
「今回は王都行きなの。忘れ物とかしたら笑い事じゃないんだから」
「わかってるって」
ノクスが後ろで“ニャッ”と鳴いた。
「ね、ノクスも言ってる。『どうせまた書類忘れる』って」
「……うちの従魔まで信用してないのね」
アリアが吹き出す。
「まぁ、心配されるのも実績のうちよ」
ミーナが少しだけ苦笑する。
「ほんと、あなたたちって……にぎやかね」
「静かなのは性に合わないからな」
「ええ、知ってるわ」
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夕暮れ。
レイバート提督の副官が桟橋に立ち、敬礼を送ってきた。
「準備は整っております。辺境伯閣下」
「その呼び方も慣れないな……」
思わず苦笑すると、副官が微笑んだ。
「慣れていただかねば。これから“そう呼ばれる”方ですから」
アリアが横で小さく笑う。
「ほら、もう逃げられないって」
「お前まで言うな」
「だって事実じゃん」
ミーナが書状を閉じて言った。
「トリス、王都ではくれぐれも“貴族らしく”ね」
「つまり、笑顔でごまかせってことか?」
「それも才能のうちよ」
ノクスが帆柱に登り、アージェが静かに甲板に足をかけた。
港に立つ人々が一斉に手を振る。
子どもたちの声が風に混ざり、潮の匂いが鼻をくすぐった。
「……行くか」
「うん、行こう」
アリアの声が追い風に乗る。
ハルトンの灯が遠ざかり、蒼晶の塔が最後まで光を放っている。
その光を背に受けながら、トリスは小さく呟いた。
「俺たちの領地ちゃんと、ここから始まったな」
ミーナが横で頷き、アリアが前を見つめる。
ノクスの影が風を渡り、アージェの瞳が月を映した。
「雷の辺境伯、王都へ出発!」
アリアが笑って叫ぶ。
トリスは苦笑しながらも、その声にうなずいた。
それはまるで、彼らの“次の章”を導くかのようだった。
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