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転生したら孤児院育ち!? 鑑定と悪人限定チートでいきなり貴族に任命され、気付けば最強領主として国を揺るがしてました  作者: 甘い蜜蝋
雷神、剣を納めず

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穏やかな朝、ハルトンにて

評価ポイント押してもらってたり、最後に親指グッドとかの数が増えてたり、ランキング情報が日々出てきてワクワクしてます。ただ、投稿スピードが異常なのでこっそり修正もしております!ごめんなさい。

朝のハルトンは、鐘の音から始まる。

 市場の屋根を照らす光は柔らかく、パン屋の煙突からは白い湯気が立ちのぼっていた。

 潮の匂いが遠くから届く――南の港町と繋がった証だ。


「おはようございます、トリス様!」

 通りを歩くだけで声がかかる。

 返す笑顔が自然になったのは、ここ数日が穏やかだからだろう。


 露店の列には、新しい果実や布、そして蒼晶の欠片で作られた小さな装飾品が並ぶ。

 今では街の光として人々の生活を照らしている。


「トリス様! パン、焼きたてですよ!」

 少年が籠を抱えて駆けてくる。

 香ばしい匂いに、アリアが小さく鼻を動かした。


「ちょっと! 先に買い占めないでよ!」

「競争だな」

 俺が冗談めかして言うと、ノクスが影の中から“ニャ”と鳴いた。

 アリアが子どものように笑って、パンを二つ掴む。

「ミーナにも持っていこっか。どうせ朝から書類漬けでしょ」



 領主館の執務室は、いつものように紙の山だ。

 陽が差す窓辺に、ミーナが座っていた。

 髪をまとめ、眼鏡の奥で真剣な眼差し、まるでこの街そのものを背負っているようだった。


「おかえり。……朝からうるさいわね、二人とも」

「差し入れ。焼きたてだよー」

 アリアがパンを差し出すと、ミーナはため息をつきつつも口元をほころばせた。


「……ありがとう。実はもう限界だったの」

 彼女は紙を一枚めくりながら、ぼそっと呟く。

「ここ数日の統計、見て。交易船からの出入りが二倍になってるのよ」

「王都との往来も?」

「ええ。商人たちは安全を実感してるの。治安維持費も減少傾向。それに、辺境伯就任のお披露目の時にオルディアがトリス領に入るかもって噂があるみたい。あと、この人よ」


 ミーナが指先で書状を示す。

 レイバート提督の名が見える。

「アルマリウス自治領、最初の交易契約よ。王国製品と港の魚介を交換。税率は対等」

「やるじゃないか、提督」

「あなたの影響も大きいのよ、トリス。

 民は“雷の辺境伯”って呼び始めてる」

「……勘弁してくれ」

 思わず頭をかく。

 アリアが楽しそうに笑い、ノクスが机の上に飛び乗った。


「はいはい、会議は一時中断ね」

 ミーナが笑う。

 アージェがその足もとに寄り、静かに座る。

 その背を撫でながら、俺は少しだけ深呼吸した。



 午後、街の中央広場では子どもたちが遊んでいた。

 影が伸び、蒼晶のランプが点るころ。

 俺たちはベンチに腰を下ろして、その光景を眺めていた。


「平和って、こういう匂いがするのね」

 ミーナが小さく呟く。

「潮とパンと、笑い声?」

 アリアが笑いながら答える。

「そう、それ。なんだか、ずっと夢みたいだったのに」


 ノクスが膝の上で丸まり、アージェは広場の端で子どもに囲まれている。

 鼻先を撫でられ、しっぽを振るその姿に、人々の恐れはもうない。


「……俺たちの領地、ようやく“生きてる”な」

「うん。生きて、動いて、笑ってる」

 アリアが空を見上げる。

 夕焼けが山と街を包み、蒼晶の光がゆっくりと夜を迎えようとしていた。



 夜。

 屋上の風は冷たく、星が近い。

 港の方向に視線をやると、遠くにかすかに灯りが瞬いている。

 あれが、レイバートたちの海だ。


「トリス」

 背後からミーナの声。

「王都から報告書が届いたわ。あなたの辺境伯就任の披露宴の日程が決まったよ」

「いつだ?」

「一週間後。王都で行われるわ」


 静かに息を吐く。


「辺境伯となると、国を荒らさせないのが仕事だな」


 ミーナが頷く。

 星の光が彼女の眼鏡に反射し、まるで小さな灯のように光った。


 アリアの笑い声、ノクスの喉の音、アージェの低い呼吸。

 それらが混ざって、静かな音楽のようだった。


「明日も、街を見回る?」

「もちろん。領主の仕事は、終わらないからな」


 夜風が頬を撫で、蒼晶の塔が淡く光った。

 その光の下で、俺たちの“日常”がまたひとつ、始まっていた。

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٩( 'ω' )و

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