暫定統治、夜明けの誓い
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夜が明けきらぬ港に、鐘の音が低く響いた。
昨日まで焦げた匂いが満ちていた街に、ようやく潮の香りが戻ってきている。
広場では瓦礫を片づける音、船大工が木槌を打つ音、鍋で煮えるスープの音。
“生活”の音が、戦のあとを塗り替えていた。
「……ようやく、静かになったわね」
アリアが溜息をつく。
肩に止まったノクスが小さくあくびをした。
その横でアージェが丸まり、港に吹く潮風を鼻先で嗅いでいる。
「静かになったけど、仕事は山ほどね」
ミーナが書状の束を抱えて近づいてくる。
「燃料配分、食料の再検査、負傷者の補助金、港湾税の凍結、あと――難民の登録。五百人を超えたわ」
「……五百か」
「ベルド派の商人が倉庫を焼いて逃げたせいよ。住む場所がないの」
俺は港の全景を見渡した。
まだ焦げ跡が残り、空の半分は煙にくすんでいる。
けれど、立ち上がる人々の姿が確かにある。
「まずは順番を決めよう」
俺は《情報網》を起動した。蒼晶の光が空中に広がる。
地図、港湾、倉庫、水路、職人、医療、すべてのデータが立体で浮かぶ。
「一、医療の再配置。寺院を臨時治療所に。
二、物資の分配。王国船三隻の倉庫を開放。
三、住居の確保。焼け残った倉を修繕して仮宿舎にする」
「その判断、王国にも許されるのか?敵国の人を助けるとは本当にいいのか?」
レイバート提督が尋ねる。
俺は頷いた。
「俺が責任を取る。ここでは、命令より先に“人”を優先する。それに我らが王は愚かではない。」
⸻
評議会室。
残った領主、神官、職人頭、商人代表、すべての目が俺に向けられていた。
「トリス殿。王国の指揮権はまだ臨時とはいえ、ここは一応、カローネの港。
貴殿が指示を出せば、“侵略者”と見なされる危険もあります」
老商人の声は慎重だった。
「なら、侵略者として見られないように動けばいい」
言葉にざわめきが走った。
レイバートが微笑む。
「ならば提案する。暫定統治の名目で、アルマリウス自治評議会を発足させよう。
議長を私が務めよう。トリス殿は顧問として補佐に入ってもらえないか?」
反対はなかった。
皆が疲れていた。
だが、その疲労の底に「信じてみよう」という光が見えた。
⸻
「……始まったな」
会議後、テラスで潮風を受けながら呟くと、ミーナが横に立った。
「あなた、本当にやるのね」
「ああ。戦いの後始末だけじゃない。
俺たちの領地の延長線としてじゃなく、一つの“未来の形”として」
ミーナは静かに微笑んだ。
「トリス、あなたが言うと、理想も現実も混ざって聞こえるのよ。不思議ね」
「多分、どっちも必要なんだと思う。理想がなければ進めないし、現実を見なきゃ誰も救えない」
ノクスが足元で喉を鳴らし、アージェが前足を伸ばした。
朝の光が波に反射し、港の壁を蒼く染めていく。
「トリス」
アリアが呼ぶ。
「リヴェールから伝令。港の復興資金が届いたって。
それと、王国から“正式通達”。
この港を、王国の南端“自治領”として認めるそうよ」
俺は息を呑んだ。
ついに、認められた。
戦で救った港が、国の未来に繋がる場所になる。
「……なら、もう迷う理由はないな」
刀《繋》の柄を軽く叩く。
アリアが微笑み、ミーナが頷き、ノクスとアージェが短く鳴いた。
その声を包むように、朝の鐘が鳴り響く。
暫定統治、始動。
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