宰相ベルド追跡(後編)-灰橋の決着
評価ポイント押してもらってたり、最後に親指グッドとかの数が増えてたり、ランキング情報が日々出てきてワクワクしてます。ただ、投稿スピードが異常なのでこっそり修正もしております!ごめんなさい。
夜の港は、嵐のあとのように静まり返っていた。
焼けた匂いはもう薄れ、潮風だけが肌を撫でていく。
港の明かりが少しずつ戻り、波音だけが夜を刻んでいた。
「灰橋方面で動きあり。荷車三台。……一人、宰相府の印章がついてるわ」
ミーナの報告に、アリアが即座に頷く。
「本命だね。行こう」
「了解。ノクス、アージェ、先行してくれ」
石畳を蹴り、霧の街道を駆ける。
夜気が冷たく、息が白い。
ノクスの影が風に溶け、アージェが低く唸る。
その音だけが、まだ戦の余韻を残していた。
⸻
古びた灰橋
鉄骨は錆び、欄干は欠けている。
月光の下、荷車が一台、ゆっくりと橋を渡っていた。
「通行札を」
レイバート提督が声を掛ける。
覆面の男が肩を竦めた。
「宰相府の使いだ。検めるな」
……この不遜な声。
「ベルド宰相だな」
覆面の下から白い髭が覗いた。
だが、その背後。
もう一人、馬上に冷たい影が立っていた。
「……もう一人、あなたは?」
アリアが矢を構える。
月光に照らされた顔――見覚えがある。
「久しいな、ミーナ・エイル嬢」
男は礼をした。
「リステア・ヴァルデン伯。開戦前、王都に赴いた“使者”と言えばわかるかな?迎えに来てくれて嬉しいよミーナ殿」
ミーナの肩が震える。
「……あなた、あの時……!」
⸻
二人の悪徳
「王国ではひどく言ってくれたものだ」
リステアは嘲笑した。
「“私は最初からこの戦の起爆剤だ。ベルド宰相が金を出し、私が火を点けた。王国の混乱は、侯国が覇権を取る好機だった」
視線がミーナへ向く。
「ついでに、彼女を“保護”する予定だった。
才も、美も、惜しいと思ってね」
アリアが一歩踏み込む。
「保護? 誘拐って言うのよ、それ」
ノクスが低く唸り、アージェの障壁が月光を反射した。
「伯爵は無闇に戦を扇動し、宰相、お前はそれを資金で支えた。二人揃って戦の元凶だ」
ベルドはまだ笑っていた。
「正義の少年は熱いな。だが、国は情熱で動かん」
「情熱がなきゃ、人は腐る」
俺の声が橋に響いた。
⸻
灰橋の戦い
ベルドが指を弾く。護衛が動いた。
アリアの矢が風を裂き、ノクスの影が足元を絡め取る。
アージェが吠え、銀の障壁が弾丸を弾く。
夜が一瞬、昼のように白く光った。
「生かしたまま捕える!」
雷が走り、橋の鉄骨が鳴る。
《電磁誘導》を開放、金属が磁に縛られ、敵の武器が宙を舞い、二人の周りに稲妻が走り、光の鎖が二人を囲んだ。
リステアが叫ぶ。
「貴様ら如きが侯国を動かせると思うな!」
「国を動かしたいんじゃない。人々を守りたいんだ」
俺の刃が閃き、男の剣をはじき飛ばす。
ノクスが影から跳び、足首を噛み止めた。
アリアの矢がベルドの袖を壁に縫い留める。
「ベルド・ガルマ、リステア・ヴァルデン。王国法に基づき拘束する!」
レイバートが前進。兵が鎖をかける。
二人の悪が、静かに終わった。
⸻
翌朝・港広場
朝日が港を照らす。
広場には市民と評議員、王国軍の旗。
壇上には鎖付きのベルドとリステア。
俺、ミーナ、アリア、そしてレイバート提督が並ぶ。
「ベルド・ガルマ、リステア・ヴァルデン。
港再建費の横領、戦争の扇動、外交詐欺、誘拐未遂
これらの罪に異議はあるか?」
ベルドは笑った。
「異議も何も、私の後ろにはまだ“王”がいる」
「王?」ミーナが眉をひそめる。
「そうだ。カローネ国王は我らを見捨てなどしない……」
その時、伝令が駆け込んだ。
「報告! カローネ国王、西方の連邦国へ亡命!」
一瞬、誰も声を出せなかったが段々とざわめきが広場を走る。
ベルドの顔からは血の気が引いた。
リステアも声を失い、ただ空を見上げた。
「……王が、逃げただと……?」
「お前たちの理想の“上”はもうない」
俺は冷静に言った。
「だからこそ、残る者が新しい国を作る」
レイバートが前に出る。
「評議会の決定により、カローネ侯国を廃し、暫定自治領とする。
首長には――レイバート・ヴァルクス提督を推挙する!」
民の間に拍手が広がった。
ベルドが絞り出すように呟く。
「……まさか、王国に膝を折る気か……」
レイバートは静かに首を振る。
「膝を折るんじゃない。並んで立つ。民のためにだ」
鐘が三度鳴る。
判決
財産没収、爵位剥奪、永久失権、拘留。
カローネ侯国国王・亡命確定。新体制、発足。
⸻
アリアが肩を並べる。
「やっと、静かになったね」
「いや、これからだ。今度は“築く”戦いだ」
ノクスが喉を鳴らし、アージェが短く吠える。
ミーナが微笑み、蒼い環を指でなぞる。
港を渡る潮風は、もう焦げていない。
光が波に反射し、まるで新しい朝を告げるようだった。
「……行こう。国も港も、もう“荒らさせない”」
俺は刀《繋》を腰に戻し、朝の風を吸い込んだ。
港の鐘が鳴り、蒼い環が波間に浮かぶ。
新しい時代の音だった。
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