蒼海を裂く雷 ― 反撃の夜明け
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夜が明けた。
潮の香りが変わっていた。
鉄と血ではなく、清らかな水の匂い、あの加護の残り香だった。
俺は桟橋の先で、風を受けて立っていた。
夜の蒼光はすでに消えたが、海はまだ“静かに脈打って”いた。
波の底で、確かに感じる。
あの時の声が、まだ生きている。
「……本当に、海が味方してくれるなんてね」
ミーナが隣で微笑む。
腕に浮かんだ青白い紋が、朝日を反射して淡く光っている。
「潮の流れが、まるで言葉みたい。今は“行け”って言ってる」
「なら、行こう。止まってる時間はない」
俺は港の外を見た。
遠くの水平線――そこに、新しい帆が見えた。
白と紺の交互。王国軍の標だ。
「……到着したな!」
兵たちがどよめき、歓声が広がる。
桟橋に立っていたアリアが手をかざし、矢を高く掲げて光を反射させた。
合図の閃光が朝霧を貫く。
十数分後、援軍艦隊が港に入った。
先頭はレオン・ハーヴィス――蒼鉄の若獅子と呼ばれる男だ。
艦を横付けにすると、潮風を裂いて声が飛ぶ。
「雷神トリス! 無事だったか!」
「おかげさまでな。間一髪で海は守った」
「その噂、王都まで届いてるらしいぞ。
――“海を護った雷神子爵”ってな!」
背後の兵たちが笑い、士気が一気に高まる。
ミーナが苦笑して小声で言う。
「ねえ、もう完全に呼び名になってるわよ」
「どうせすぐ慣れるさ。……問題は、その名に見合う戦い方をすることだ」
俺はレオンの差し出した地図を受け取った。
そこには、カローネ侯国の沿岸線と主要港アルマリウスの印。
あの“炎弾艦”が建造されていた港だ。
「目標はここだな。造船基地を押さえれば、侯国の艦隊は二度と浮かばない」
「ああ。王命でもある。
だが海図によれば、浅瀬と岩礁が多い。普通の進軍では座礁の危険がある」
その言葉に、ミーナが手を挙げた。
「私が“潮路”を開きます。加護のおかげで、潮の流れが読める」
「……潮路?」
「ええ。流れそのものを変えるの。
この海域の潮を、私たちの船にだけ“味方”させる」
レオンが驚き、俺の方を見た。
「そんなことができるのか?」
「できるさ。もう海は、俺たちの側だ」
ミーナが両手を海面にかざす。
指先から青い紋がほどけ、波が呼応するように光を帯びた。
潮流が回転し、渦を描く
いや、渦ではない。
海そのものが“道”を作っていた。
「……これが、“蒼環”の加護か」
レオンが息を呑む。
俺は頷き、刀《繋》を抜いた。
「全艦、進路を合わせろ! 潮が示す道に乗れ!
このまま、侯国の港を叩く!」
号令と同時に、帆が張られた。
風が鳴り、波が割れる。
青い潮の帯がまっすぐ敵国へと伸びていく。
⸻
数時間後。
空は曇り、海は鉛色に変わっていた。
だが潮流だけは、青く光っている。
それが“味方の道”の証だった。
「前方に敵艦確認! アルマリウスの哨戒艇です!」
「構うな、抜けるぞ!」
砲声が響く。
だが、当たらない。
潮の流れが敵弾を“逸らしている”。
まるで、海が意志を持って守っているようだった。
「すごい……潮がこっちの船を押してる!」
ミーナが叫ぶ。
アリアが帆柱の上で弓を構えた。
「敵の舵を狙うわ。船首、左十五度!」
放たれた矢が電光を纏い、敵艦の舵輪を貫いた。
火花が散り、舵が固定されたまま方向を変えられなくなる。
「ナイスショット!」
「お褒めにあずかり光栄です!」
ノクスが影走りで敵艦の影を渡り、火薬庫を切断。
アージェの咆哮が響き、銀の障壁が仲間の船を守る。
波の上で、雷と潮が交錯する。
これが、海を味方にした戦いだ。
「敵艦、沈黙!」
「前進、止まるな! 港を抜けて、そのまま上陸準備だ!」
⸻
やがて、海の向こうに見えた。
黒い塔のように立つクレーン、煙突、造船施設。
そこがカローネ侯国の港、アルマリウス。
敵はまだ混乱していた。
港の防壁の内側で、火炎艦が未完成のまま並んでいる。
炎の代わりに、焦げた煙が上がっていた。
昨日の敗北で、侯国はまだ立ち直れていない。
「ミーナ、潮を止めろ。ここからは陸戦だ」
「了解。潮流、固定するわ」
海が静止する。波ひとつ立たない。
まるで、戦いを見守るために息を潜めたようだった。
俺は刀を抜き、前へ出た。
「行くぞ。ここからが“反撃”だ」
雷光が刀身を走り、空が一瞬だけ白く光った。
ミーナが水を呼び、アリアが矢を構え、ノクスとアージェが前へ躍る。
リヴェール港で守った命を、今度は取り戻すために。
海を汚そうとした者たちに、“正義の潮”を返すために。
「全軍、突撃!」
雷鳴が響く。
空と海が共に吠えた。
そして、青い潮と白い閃光が、カローネ侯国の港を包んだ。
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