潮の目覚め "海"が見ている
評価ポイント押してもらってたり、最後に親指グッドとかの数が増えてたり、ランキング情報が日々出てきてワクワクしてます。ただ、投稿スピードが異常なのでこっそり修正もしております!ごめんなさい。
戦いの夜。
追撃の準備が進む港で、ひとときだけ静寂が訪れていた。
焦げた桟橋、破れた帆、濡れたロープ。
まだ人の手が戻らぬ、その静けさの中、潮の匂いの奥に、懐かしい香りが混じっていた。
俺とミーナは桟橋の先に立ち、黙って海を見つめていた。
波は穏やかで、風もない。
だが、不思議と“生きている音”がした。
波ではない。もっと深く、心の奥を叩くような、海の鼓動。
「……ねえ、トリス」
ミーナの声が、潮の匂いを揺らした。
「海が、こっちを見てる気がするの」
彼女の横顔が、月の光に染まっていた。
瞳に映るのはただの水面じゃない。
細い月の道が、海の奥へ続いているように見えた。
「怒ってもいない。悲しんでもいない。ただ、見てるの」
「……ああ。俺も感じる」
俺は低く答えた。
「“海を燃やさなかった”ことを、見てたのかもな」
その瞬間、潮の音が、止まった。
夜風も、砂鳴きも、遠くの修復音すら消える。
まるで海そのものが、呼吸をやめたかのように。
そして。
光が、波の裏から滲み出た。
「っ……!」
ミーナが息を呑む。
水面の下で、青白い光が走る。
それは生き物の鼓動みたいに“ドクン”と震え、
次の瞬間
海が脈打った。
波が、息をした。
静止していた世界が、ゆっくりと“目を覚ます”。
潮の底でうねる光が形を変え、まるで誰かの心臓のように打ち続ける。
「……これは、なんだ?」
「精霊……なのかもしれない」
ミーナの声は微かに震えていた。
「母が言ってた。“海を汚さぬ者には、潮が声を返す”って」
俺は海を見た。
確かに、声にならない“何か”が届いていた。
感謝にも似た温もり、そして、安堵。
海の底で、誰かが微笑んでいるような感覚。
光が、集まっていく。
輪郭を持たぬ人影。髪は流れる潮のように揺れ、瞳は深い蒼。
けれど、その姿はまだ定まらない。
言葉を発する前に、光は霧のように散り、波の奥へ消えた。
「……消えた?」
「ううん、違う」
ミーナの瞳が揺れた。
「“来る”……」
潮の流れが変わる。
波が港へ押し寄せるのではなく、外へと引いていく。
海が、何かに道を譲るように、開かれていく。
息を呑む俺たちの前で、夜空の星がひとつ、海に落ちた。
星は沈まず、波に乗り、やがて形を成す。
青い柱が、海面から昇った。
その光は太陽よりも穏やかで、
それでいて、神を思わせるほど澄んでいた。
「……トリス。きっと、これが」
「“見ていた者”だな」
潮風が吹く。
波が再び音を取り戻す。
世界がゆっくりと呼吸を再開した瞬間、
港の水面に蒼い紋が浮かび始めた。
渦でも波でもない。
まるで祝福の環のように、柔らかく光を放ちながら、
海を包み込む“光の環”が、静かに広がっていった。
応援ありがとうございます!
皆さんのブクマや評価が更新の大きな力になっています٩( 'ω' )و
「次話も楽しみ!」と思っていただけたら、ポチっとしてもらえると嬉しいです!




