冒険者ギルドでの登録
とんでもないスピードで投稿を続けております。甘い蜜蝋です。みなさんよろしくお願いします。ランキング情報が日々出てきてワクワクしてます。ただ、投稿スピードが異常なのでこっそり修正もしております!ごめんなさい。
翌朝
まだ王都の空は白く、石畳には夜露が残っていた。
トリスは古びた上着を着込み、腰に小さな袋を結びつける。
袋の中には、孤児院から預かった紙切れ一枚。
孤児であることを証明するものだ。
(これが……俺の切符になる)
孤児院の門を出ると、街はすでに活気づいていた。
行商人の掛け声、荷馬車の軋む音。人々は市場へと急ぎ、忙しなく行き交う。
痩せた少年の姿に一瞬だけ視線が集まるが、すぐに逸らされる。
トリスは苦笑した。慣れている。いつものことだ。
⸻
やがて、街の中央広場に堂々と建つ建物が見えてきた。
分厚い石壁に木の梁を組み合わせた重厚な造り。入口の上には、剣と盾を組み合わせた紋章。
「……冒険者ギルド、か」
息を大きく吸い込み、トリスは扉を押した。
⸻
中は、まるで別世界だった。
酒と油と鉄の匂いが混じり合い、怒鳴り声や笑い声が飛び交う。
壁一面には依頼の張り紙がびっしり。剣や鎧を身に着けた屈強な男たち、軽装の女冒険者たちが大声で談笑していた。
トリスが足を踏み入れた瞬間、視線が一斉に集まった。
「おい、ガキが来たぞ」
「雑用でも探しに来たか?」
「おつかいか? 迷子か?」
くすくすと笑う声が耳に刺さる。
トリスは顔を赤くしながらも、まっすぐ受付へ歩いた。
⸻
カウンターに座っていたのは、茶髪を後ろでまとめた若い女性。
仕事に慣れた雰囲気を漂わせていたが、少年の姿に少し驚いたように目を瞬かせた。
「……いらっしゃい。僕、何歳かな?」
「九歳です」
「……九歳で? ここに?」
女性は思わず声を落とした。
けれど、トリスは小さく頷く。
「冒険者登録をお願いします」
「……っ! ちょっと待って。未成年の登録は普通、保護者か後見人が必要なのよ」
「孤児院からの証明なら、持ってきました」
懐から折り畳まれた紙を取り出し、差し出す。
女性は受け取り、じっと目を通した。
「……たしかに孤児院の印。それに、シスター・エレナの署名もあるわね」
「はい」
女性はため息を吐いた。
「子どもが冒険者になること自体は珍しくないけど……危険な仕事よ。本当にやるの?」
「わかってます。それでもやります」
迷いのない声。
その真っ直ぐな目を見て、女性は小さく肩をすくめた。
⸻
「じゃあ、まずはステータス測定からね。ここに手を置いて」
取り出されたのは、透明な水晶球。
トリスが恐る恐る手をかざすと――
ぱちっ、ぱちぱちっ……!
星のような光が球体に集まり、瞬く間に球全体を満たしていく。
やがて、まばゆい輝きが溢れ出した。
「……っ!」
女性の目が大きく見開かれる。
周囲の冒険者たちもざわめいた。
「おい……見ろ、あのガキ……!」
「魔力の光が……強すぎる……!」
【ステータス】
名前:トリス(9歳)
Lv:1
HP:62 / MP:670
STR:11 VIT:10
AGI:14 DEX:18
INT:25 MND:18
LUK:50
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受付嬢は慌てて声を整える。
「……魔力の基準値を大きく超えてるわ。ここまでの子は、滅多にいない」
「そうですか」
トリスは平静を装いながらも、胸の奥で静かに息をついた。
「次はスキル登録ね。名前を刻んで」
木札を手渡され、トリスは「トリス」と刻む。
その瞬間――目の前に光の板が浮かび上がった。
⸻
【ステータスボード更新】
名前:トリス
スキル:鑑定/スキル詐奪 Lv1(レジェンド)
サブ:観察眼/人心掌握
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(……な、なんだこれ……? “スキル詐奪”?
その瞬間だった。
頭の奥で、何かが弾ける。
闇夜に舞う影。
泣きじゃくる子どもを庇い、悪徳商人から金を奪い返す自分の姿。
「善良な者からは決して盗まない」
誰かの声が、確かに聞こえた。
「っ……!」
思わず胸を押さえる。
心臓が熱い。
これは、ただのスキルじゃない。
俺は知っている。
この力を使うべき相手を。
悪人だけを欺き、奪い、罰する。
それが、かつて俺が歩んだ義賊の道。
「……俺は、また……ここから始めるのか」
小さな声は誰にも届かなかった。
だが俺の中で、確かに誓いは燃え上がっていた。
受付のお姉さんは言わなかった……。
……俺にしか見えてない……? だったら、絶対に隠さないと……!)
心臓がどくんと跳ねた。
胸の奥で、何かを悟った。
これは秘密だ。誰にも知られてはいけない。
⸻
「鑑定がレア判定……それに観察眼まで。……君、本当に九歳?」
「はい」
「すごいわね……」
女性が感嘆の声を漏らしたその時、奥の扉が開いた。
⸻
現れたのは、分厚い肩と大きな腕を持つ壮年の男。
額には傷跡が走り、鋭い眼光が少年を射抜く。
「なんだ、騒がしいと思えば……ガキか」
「マスター!」受付嬢が声を上げる。「彼、鑑定がレアで……」
男は鼻を鳴らし、ずかずかと近寄った。
そして、睨みつけるようにトリスを見下ろす。
「坊主。名前は?」
「トリスです」
「……いい目をしてるな。嘘をつくときも、その目をしてみろ」
唐突な言葉に戸惑う。
だが男は口の端を吊り上げた。
「俺がギルドマスターのガルドランだ。今日からお前は冒険者だ」
「……はい」
「だが覚えておけ。冒険者は、依頼を受けるだけじゃない。生き残らなきゃ意味がねぇ」
「……わかりました」
ガルドランは銀縁のカードを差し出した。
ギルドの受付嬢が帳簿をめくり、こちらを覗き込んだ。
「さて、トリス君。初依頼は何にする?選んでいいのよ。何がいい?」
俺はごくりと喉を鳴らす。
壁に貼られた依頼書はどれも怖そうだ。狼退治、盗賊追跡……その中で、常設依頼と書かれたひときわ地味な紙切れに目が止まった。
「……スライム、掃除?」
受付嬢が微笑んだ。
「うん、下水道に湧いたスライム退治ね。正直、他の魔物に比べたら危険は少ないわ」
横で見ていた古参の冒険者が口を挟む。
「雑魚だと侮れば死ぬぞ。けど、選びとしては悪くない。初めてにちょうどいいと思うぞ〜」
「……僕、それにします」
言葉にした途端、胸の奥が少し軽くなった。
受付嬢はやさしい声で続ける。
「スライムは斬れば分裂することもあるけど、弱点はちゃんとあるの。よく見て、落ち着いて狙えば九才でも倒せるわ」
「ほんとに……俺でも?」
「ええ。ちゃんと学んで、焦らずに動けばね」
俺は拳を握り、うなずいた。
「……やります」
カードを受け取った瞬間、胸の奥に熱が広がる。
⸻
(これが……俺の始まりだ)
少年の目は、迷いなく前を向いていた。
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