燃ゆる誓い
評価ポイント押してもらってたり、最後に親指グッドとかの数が増えてたり、ランキング情報が日々出てきてワクワクしてます。ただ、投稿スピードが異常なのでこっそり修正もしております!ごめんなさい。
カローネ侯国、海都アルマリウス。
夜の宮殿は、絢爛の裏に腐臭を隠す牢獄だった。
金箔の柱、紅玉の燭台、そして血のように赤い絨毯。
足元には割れた酒瓶が転がり、香水と血酒の匂いが鼻を刺す。
女たちの笑い声が残る広間の空気は、甘く、そして濁っていた。
「ふはははは! 雷神だと? そんな子供じみた噂で兵が逃げたと申すか!」
侯国宰相ベルド・ガルマが、酒杯を床に叩きつけて笑った。
脂ぎった頬が揺れ、指の金環が燭光を乱反射する。
背後では、女官たちが笑いながら葡萄を足で潰し、赤い汁を杯へ注いでいた。
「まったく……王国の小僧ごときに艦隊を壊滅されるとは。
どれだけ無能を集めれば、そこまで負けられる?」
嘲る声に、静かな足音が割り込んだ。
焦げた軍服、裂けた外套。
夜の海から戻った提督レイバートが、広間の中心で膝をつく。
「……報告いたします。」
その声は低く、冷たかった。
侯の玉座の上で、カローネ侯がゆるりと杯を揺らす。
脂の滴る頬が薄笑いを浮かべた。
「申せ、レイバート。」
「我が艦隊、百五十隻中、百三十八隻を喪失。
王国の南方指揮官、トリス・レガリオン。
“雷神”の異名、虚構にあらずと判断いたします。」
ざわり、と場が波打つ。
侯の笑みが、次第に引き攣った。
「……ふん。たかが辺境の子爵風情。
その名を貴様が恐れるとはな。」
「恐れてはおりません。」
レイバートの瞳が僅かに光る。
「ですが、侮れば国が沈みます。」
刃のような言葉に、宮殿が凍った。
侯の瞳が細まり、唇の端が歪む。
「……言葉を慎め。」
周囲の貴族たちが慌てて怒鳴る。
「不敬だ!」「この男、己の敗北を他人に擦り付ける気か!」
ベルド宰相が芝居がかった仕草で杖を鳴らす。
「侯よ、提督は敗北の責任を恐れておるのです。
“雷神”などという噂に逃げ込むとは、見苦しい限り。」
その声に重なるように、鎖の音が響いた。
連れてこられたのは、敗戦前に侯国へ密偵を放っていた――レーン子爵とコルナ男爵。
二人の顔には血と恐怖の色。
侯の笑みが冷たく伸びる。
「お前たち……王国の若造を“無能”と報告したな?」
レーン子爵が泡を吹きながら叫ぶ。
「ち、違う! 我らはただ、奴の力を過大に伝える者どもを戒め――!」
「口を慎め。」
侯の声が低く落ちた。
「貴様らの誤報でこの国は屈辱を味わった。もう用はない。」
「ま、待ってください! 侯よ、我らは忠誠を!」
その言葉を最後に、刃が走った。
床に響く金属音。
続いて、短い悲鳴と血の香り。
ベルド宰相が笑いながら葡萄を口に放り込む。
「見苦しい断末魔でしたな。血も知恵も薄い。」
侯は杯を飲み干し、冷ややかに言った。
「次はない。レイバート、今度こそ勝て。」
「……勝てぬ戦を命じられるのですか。」
広間が再びざわつく。
ベルドが怒鳴る。
「無礼者! 貴様は侯の命に逆らうのか!」
だが、レイバートの声は静かだった。
「王国の雷神は“海”を支配した。
だが、我らには“炎”がある。」
侯が眉を上げる。
「炎……だと?」
「地を焼き尽くす兵器です。艦ではなく、陸。
雷には雷の速さがあるが、炎は止まらない。
……焦土こそ、我らの勝ち筋。」
侯はしばし沈黙し、そして笑った。
その笑いは、狂気を帯びた歓喜の音だった。
「よかろう。炎で雷を焼け。
その火で、王国の海をも呑み込んでしまえ!」
杯が床に落ち、紅い酒が血のように広がる。
レイバートは踵を返し、深く一礼した。
「承知しました。次は、陸で決着を。」
背後で、侯と宰相の笑い声が重なり、宮殿の奥で響いた。
だが、レイバートの表情は冷ややかだった。
廊下に出ると、豪奢な香が遠ざかり、潮風が代わりに鼻を打つ。
夜空には、あの日見た稲妻が一筋、遠くを照らしていた。
提督は懐から、焼け焦げた侯国旗の切れ端を取り出す。
雷光で裂けたその布を握り締めながら、低く呟いた。
「雷神……次は、陸で沈める。」
その瞳には、野心ではなく、静かな怒りがあった。
それは、この腐敗した国で唯一、まだ戦士でいられる男の光だった。
空を裂く雷鳴が、遠い海の向こうで応える。
炎と雷
二つの力が、再びぶつかる日が近いことを告げるように。
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