交戦特権
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リヴェール港の朝は、いつになく静かだった。
戦の終わりを告げるように、潮の香りが柔らかく漂う。
港の桟橋には折れた槍と焦げた帆布が散乱していたが、
人々の顔にあるのは、疲れよりも確かな笑顔だった。
「雷神様だ!」「トリス様が帰ってきた!」
声が波のように広がる。
そのたびに、子どもたちが駆け、兵士たちは胸に拳を当てた。
勝利の実感が、ゆっくりと街を包み込んでいく。
トリスは港を見渡し、深く息を吸った。
潮と油と鉄の匂い、それが、いまの南方の匂いだ。
背後ではアリアが腕を組み、少し呆れたように笑っていた。
「英雄ね。」
「英雄って言葉は、あまり好きじゃない。」
「じゃあ、雷神様?」
「それも違う。」
トリスは小さく笑った。
「みんなが強かっただけだ。」
その言葉に、アリアの笑みが柔らかくなる。
「……そういうとこ、変わらないわね。」
⸻
数時間後。
リヴェール領館、臨時本営。
戦後処理と再編のため、南方貴族や将校たちが一堂に集まっていた。
長机の上には戦図と補給表。
燃え残った香が、戦場の空気をまだ残している。
「まず報告だ。」
トリスの声が響く。
静寂が広がり、全員の視線が彼に集まる。
「敵艦隊百五十隻、うち九割を撃沈・炎上。
生存船は西へ退避、指揮官レイバート提督も消息不明。
我が軍の損耗、死者なし、負傷六十七。家屋等への被害は多くあるものの、……被害としては極めて少ない。」
「戦だというのに死者なしだと……」
誰かが呟き、信じられないというように顔を見合わせた。
まるで神話の報告のようだった。
トリスは続ける。
「港の修復は三日で完了させる。
その後、穀倉街グレインハルトからの食料輸送を再開する。
南方の物流線を完全に繋ぐのが最優先だ。」
副官が手を挙げた。
「総指揮、王都からの補給便が届きました。
鉄鋼二千、魔導石百、兵站用馬車八十台。」
「よし。工房班に回せ。次の戦の準備だ。」
ざわめき。
「……次の、戦?」
兵たちが顔を見合わせる。
アリアだけが、静かにその言葉を待っていた。
トリスは立ち上がり、地図を指でなぞる。
リヴェールのさらに南、海を隔てた対岸、カローネ侯国本土。
「侯国は、また立ち上がる。
俺たちがここで守りを固めても、永遠に繰り返されるだけだ、だから終わらせる!」
沈黙。
その意味を理解するまで、誰も口を開けなかった。
「攻める、ということですか……?」
「そうだ。」
トリスの声は静かだったが、確固としていた。
「防衛は終わりだ。今度は奪われないために動く。」
若い将校が立ち上がる。
「しかし、陛下の許可が」
「すでに宰相オルヴィウス殿から承認を得ている。
“南方総指揮、統治及び交戦特権”、王命だ。」
その瞬間、場が震えた。
王の直命。
つまり、王都の承認を待たずに軍を動かせるということ。
それは王国史において、ほとんど前例のない裁可だった。
アリアが微笑んだ。
「……本気ね。」
「ああ。ここで終わらせる。」
⸻
会議の後。
港の夕陽が再び赤く染まり始めていた。
トリスは桟橋を歩きながら、波打つ光を見つめていた。
そこへ、リヴェール領主リシャール・ド・リヴェールが近づく。
彼のその顔には満面の感謝の笑みがあった。
「……見事だった、トリス殿。」
「守りきれたのは皆のおかげです。」
「いや、君がいなければ港は灰になっていた。
恩に着る。……この南部は、もはや君のものだ。」
トリスは首を振る。
「違いますよ。領民、みんなの物です。
俺が守ったのは、王国と、この地に生きる人たちだけです。」
リシャールは少し笑い、深く頭を下げた。
「君のような者が、我が国にいてくれてよかった。」
潮風が吹き、赤い光が二人の間を照らした。
その背後で、工房の槌音が響く。
次の戦の準備は、すでに始まっている。
⸻
夜。
トリスは執務机の前に座り、戦況報告書を閉じた。
机の端には、焦げた掌に残る包帯。
指先にまだ、微かな電気の感覚が残っている。
アリアが入ってきて、手を腰に当てた。
「まだ起きてたの?」
「すぐ寝るよ。」
「嘘。……目が戦場のままだもの。」
トリスは微笑む。
「次は、守る戦じゃない。だからこそ、眠れないだけだ。」
「戦いが終わるまで、あなたはきっと眠らないわね。」
アリアは机の上の報告書を手に取り、そっと置き直した。
「でも、次は“戦”じゃなく、“未来”を取りに行くのよ。」
トリスは目を細めた。
「……未来か。」
「そう。あなたが誰より信じてる“民”の未来。」
その言葉に、トリスは静かに頷いた。
そして、窓の外を見上げる。
夜空には薄い雲が流れ、遠くで稲妻が光った。
「行くぞ、アリア。海を渡る。――終わらせるために。」
「うん。」
アリアの声は、夜の中でもはっきりと響いた。
蒼白い光が空を裂き、港の海面を照らした。
雷神の刃はまだ、鞘に納まってはいない。
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初投稿作です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。
あと、AI様にお絵描きをお願いするのにハマり中です。




