戦支度、二つの旗
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王の裁定が下ったその夜、王都の執務棟では灯が消えなかった。
宰相は巻物を机に広げ、矢継ぎ早に命を飛ばす。
「軍備、糧秣、輸送。三手同時に動かす。王都軍は一隊を南東へ。近衛は王都防衛に残す。商会連合へは弓と矢羽を五万、穀糧は三月分だ」
「伝令! リヴェールへ急報――桟橋の固定、倉庫の封印、火薬庫の移設!」
「冒険者ギルドへ布告稿、用意できたか」
「できております、『王国名義の特別依頼』として貼り出します!」
書記官たちが走り、封蝋に王紋が押されてゆく。
廊下の曲がり角で、皇太子が足を止めた。宰相と視線が交わる。
「……若き子爵を前線に置くことに異論も上がるだろう」
「承知の上です。ですが、殿下。彼は『先陣に立つ』と民の前で誓いました。旗は、掲げられた時に最も風を掴む」
「ならば、風を途切れさせるな。王国全軍の連絡線に彼の《情報網》を載せる。書式は王国側に合わせるが、実務は彼の領の才覚に準ずる」
「御意」
王都で指示の輪が広がる、その頃。
◇
ハルトン領主館
地図卓に四都市の図が広がり、ミーナが次々と札を置いていく。
「まず輸送。グレインハルトの穀倉から主街道を通すのは危険。森沿いを抜けてロックハルトで一旦集積、炭と木材の荷車に偽装して王都へ、ここで王都軍の輸送列と合流」
「鍛冶は?」とカイン。
「あなたの鍛冶場を中核に、ハルトン三工房を徹夜稼働。刃物は短剣を優先、次に槍頭。弓は弦の在庫が薄いから王都へ発注。矢羽はロックハルトの鳥小屋組合に買い付けを掛けたわ」
「テルマハルトは癒やし班な」とトリス。
「うん。双子座の水瓶は噴水に固定のまま。外すのはリスク。街長セオドアと宿屋組合に“湯の担架”隊を組ませた。前線行きの湯壺は十基、交代制で回す」
アリアが二刀を外し、机に置いた。
「斥候は私がやる。アージェの障壁とノクスの影走りを合わせて、偵察隊を二重に。……それと、冒険者の振り分けは?」
「階位で三層化する」ミーナは即答した。「A・Bは前線支援。Cは護衛と救助。D以下は街道警備と避難誘導。報酬は王国持ち、前金は領内基金から後で王都清算」
トリスは四都市の街長文書を確認し、頷いた。
「エルマー、セオドア、グスタフ、マルク。各市の動員規模は妥当だ。だが“人を出す”だけが支援じゃない。留守を守る者にこそ礼を。この書簡、俺の名で出す」
ミーナがさらりとペンを替える。
「了解。言葉を少し柔らかくしておく。“皆が君たちが残ってくれるから前線が戦える”。――これで民の心が折れない」
カインが工具袋を叩いて笑った。
「じゃ、俺は火花を散らしに戻る。刃は足りないなんて言わせねえ」
フレイアが片手を上げる。
「火は任せな。綺麗に、丈夫に、速く。――あんた(トリス)が無茶するなら、戻る道しるべくらいは残しといてやる」
アージェが低く喉を鳴らし、ノクスが影の中を一歩すべる。
言葉は要らない。――行ける、の合図。
トリスは皆を見渡し、短く言った。
「動く。今日から、戦だ」
◇
夜、ハルトン中央広場。
石畳に松明の列が揺れ、ダンジョンビューの魔晶板が告知を映し出す。
四都市の街長が並び、民と冒険者の海が静まった。
「王国より特別依頼、布告!」
書記の声が響く。
「沿道警備、避難誘導、負傷者搬送、港湾防衛――各任務ごとの募集要項、報酬、交代制、誓約の取り決めを読み上げる!」
ざわめきの中、トリスが前に出た。
「俺は先陣に立つ。だが――背中は、みんなに守ってもらう。前も後ろも“守り”だ。どれが欠けても勝てない」
沈黙ののち、拳がいくつも上がった。
「任せろ!」「道は俺らが開ける!」「湯は絶やさねえ!」
声の渦が、恐れを熱に変えていく。
ミーナが最後に一言だけ加えた。
「名簿はここ。誰が何を担うか、私と一緒に決めよう。あなたの力が、明日の命を救う」
◇
同刻、カローネ侯国・南岸の砦。
風は湿り、松明の煙が低く滞る。
地図の上に駒が叩きつけられ、侯国将軍が冷たく言った。
「港を焼け。倉庫を押さえ、桟橋を切れ。王国の喉を掴めば、剣より先に膝をつく」
その背後、痩せた男爵――コルナがいやらしく笑う。
「“証言者”には口止め金を。鑑定書の追記も済んでおります」
銀髪のレーン子爵は鼻で笑った。
「王国は“癒し”で民を縛る。ならば我らは“恐れ”で縛ればよい。火は言葉より早く広がるものだ、傭兵団に金は払う。盾となり刃となれ。黒煙の向こう側に、我らの取り分が待っている」
傭兵たちが笑い、油の染みた布で刃を拭った。
南の海は静かだ。だが、遠くで鈍い波音が増えている。
◇
明け方。ハルトン南門
荷車の列が動き出す。炭俵の底に包んだ矢束、木箱に偽装した短槍頭、湯壺の周りには布で巻いた携行具。
街道沿いに立つ人々が、掌を胸に当てて見送った。
トリスは鞍上から一度だけ振り返る。
噴水の中の双子座の水瓶が、かすかに星のように瞬いた。
アリアが隣で笑う。
「帰る場所、ちゃんとある」
「帰ろう。勝って、全部連れて」
ミーナの声が《情報網》と《大統治》を伝って隊列全体に響いた。
『第一梯団、南東へ。第二梯団、半刻遅れで追随。街道分岐で集合地点確認――全隊、出発』
号令ののち、蹄が一斉に地を蹴る。
王国の旗と、四都市の旗と、若き領主の決意が、同じ風を掴んだ。
戦は、始まった。
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初投稿作です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。
あと、AI様にお絵描きをお願いするのにハマり中です。




