吹き荒ぶ声なき戦場
とんでもないスピードで投稿を続けております。甘い蜜蝋です。みなさんよろしくお願いします。ランキング情報が日々出てきてワクワクしてます。ただ、投稿スピードが異常なのでこっそり修正もしております!ごめんなさい。
蒼晶の眠る洞 第23層
最後の段を降り切った瞬間、世界が傾いた。
突風が横から体を持っていき、肺の中身を奪う。冷えた砂が頬を削り、耳の奥で風圧がぎゅうと鳴った。青白い苔の光は千切れてはつぎはぎになり、影が波のように寄せては返す。岩壁には細い砂筋が走り、風が通るたびに線が増える。
(声は死んでる。なら——意識で繋ぐ)
俺は《情報網》と《大統治》を重ね、アリア/アージェ/ノクスの視界と鼓動を束ねた。触れた先から、息の速さ、皮膚の温度、筋肉の緊張が確かな像になって流れ込む。
《聞こえるか》
脳裏に投げると、アリアの視線がこちらに合い、短く頷く像が返る。アージェの唸りが落ち着き、ノクスの尾が二度、床を叩いた。
⸻
風の縫い目がほどけ、黒い影が滑り込んだ。
狼ほどの体躯。毛並みは常に逆立ち、体表から細い砂煙を巻き上げる。前脚の爪は長く、動きに合わせて薄い風の刃が伸び縮みし、光の糸を引く。咆哮は上がっているはずなのに、風に飲まれて音にならない。
——風刃獣。
《正面》
アリアが弦を引く。冷えで強張った指先がわずかに震え、放たれた矢は突風にさらわれて岩肌に**ガキンッ!**と弾けた。
(流される……!)アリアの焦りが走る。
側面から別の個体。アージェが障壁を張るが、風圧で角度を奪われ、爪先が膜を削って火花が散る。踏ん張る後肢が滑り、爪が床石を掻いた感触がこちらにも伝わる。
(押し切れない!)
ノクスは影から飛ぶ——が、光と影が風にちぎれて座標がズレ、牙は空を噛んだ。
(掴めない)尾が苛立ちに床を叩く像が響く。
矢は曲がり、壁は流され、影は捻れる。
風は敵で、地形で、武器だ。こちらにとっては最悪の三重苦。
(風を「敵」から「道具」に。やれる)
⸻
《アリア、あの岩陰。出た瞬間を、風に乗せて》
《了解》
弦が深く軋む像。アリアは狙点をわずかに外し、風の曲線を読む。矢は放物線を描き、突風に掬われてくいと曲がり、岩陰から跳ねた獣の背中に食い込んだ。
(乗る! 次もいける!)
《アージェ、尖らせて。風を裂け》
「ワン」
障壁が丸から角へ。前面の一角をぐっと出し、風の帯を縦に割る。切れ目を跨ごうとした獣の体勢が崩れ、アージェの肩がぶつかり、巨体が岩へと叩きつけられた。
(押せる。護れる)
《ノクス、足元の陰。浅いところを選んで》
「ニャ」
影が細く繋がる。ノクスは黒の筋だけを踏み、風の切れ目の背面へ。尾の一閃が喉の薄い皮を断ち、黒い血が霧になって風に散った。
(狩れる)
三者の呼吸が揃う。文字通り、同じ肺で吸って吐くみたいに。声は必要ない。意識で絵を渡し、筋肉が絵の通りに動く。
数で押してきた群れは、風の穴をこちらが見つけるたびに一体、また一体と削げた。だが
⸻
奥の暗がりで、苔の光がまとめてふっと消えた。空気が一段重くなる。
群れが左右へ割れ、道を開ける。その中心から、白い毛並みを逆立てた巨影が現れた。体格は他の倍。体毛の一本一本から細い風が吹き出し、周囲の砂を常に外へ押し払っている。爪先を岩に滑らせただけで粉塵がふわりと舞う。
群れの王。
《俺が受ける。アリア、眼。ノクス、背後。アージェ、止め》
《了解》《任せて》《ワン》
巨影が地を蹴る。風の轟きが逆に引き絞られ、音が消えた。
爪の一撃。アージェの障壁ごと押し込まれ、俺の刃に痺れる重さが乗る。腕の骨が軋み、足裏の石がわずかに沈む。
(重い。真正面は不利)
次の一撃が来る。刃で受けず、体を半身にして風の帯の外へ逃がす。爪は壁をえぐり、砂煙が線になって舞った。
(直線に勝負しない。曲線で受ける)
《アリア、風筋で“右上がり”。矢を滑らせて》
《……見えた》
アリアの瞳が細くなる像。矢が放たれ、風の斜面を滑って曲がり、王の片眼に吸い込まれた。
巨影が顔を振る。一瞬だけ風の縫い目がほころぶ。
《ノクス、そこ》
「ニャッ」
影の浅瀬をひと跨ぎ。尾が残った眼を薙ぎ、視界を奪う。血の弧が風で引き伸ばされ、細い赤い線になる。
しかし王は退かない。視界を失っても、体毛から吹き出す風で周囲の流れを“掴んで”いる。反射で繰り出す爪が、俺の頬を紙一枚分で掠め、冷たい切創が走った。
(見えなくても、風で読む。化け物め)
《アージェ、正面、押し続けろ。壁を“床”に変える》
「グルル」
障壁をさらに角張らせ、押し続ける。王の突進力は強いが、面ではなく角で受ければ風の帯が分断され、力が漏れる。足裏が石を掻く振動が、意識の線からこちらへ伝わる。
王の肩がわずかに下がった。狙い目だ——が、まだ浅い。ここで踏み込めば、逆に風の渦に飲まれる。
(焦るな。風は“今”と“次”で顔が違う。次の顔を先に掴む)
⸻
俺は腰袋から導晶砂をすくい、風に乗せて散らした。
白い粒が宙で揺れ、渦や流れを線に変える。暗闇に、目には見えなかった風の地図が浮かんだ。
(……見えた。右前に“穴”、左後ろに“段差”。半息後、奴はそこに踏み込む)
《アリア、右前の穴に矢を打ち込んで“杭”にしろ。ノクスは左後ろで構えろ。アージェ、一歩だけ退いて、俺に道を》
《了解》《ニャッ》《ワン!》
アリアの矢が風の凹みに突き刺さり、見えない杭となる。ノクスは段差の上で身を伏せ、影に同化した。アージェは重たい前脚を引き、俺の前に空間が開けた。
その瞬間、王が突っ込んでくる。風ごと押し潰すような猛進。
だが、奴の巨体は導晶砂が描いた穴へと吸い込まれるように踏み込んだ。
《今だ!》
俺は半歩踏み出し、刃の“刃先”ではなく“棟”で王の手首を叩きつけると衝撃が走り、風の筋がずれて力が抜けた。巨腕は軌道を外れ、絡みつくようにアリアの矢杭に引っかかる。
体勢を崩した王。その背へ、ノクスが段差から飛んだ。影を裂く黒い軌跡、尾が肩甲骨の隙間を深く抉る。
初めて、王の巨体が動きを止めた。
《押し切れ!》
俺の指示に、アージェが障壁を突き出す。風と風がぶつかり、"ゴォッ!,と圧が弾けた。王の脚が石床に沈み込み、巨体が半拍遅れて揺れる。
(ここだ!)
一息のためも置かず、俺は袈裟懸けに踏み込む。
刃が白毛を裂き、皮と筋肉を断ち、硬い骨に触れる寸前で角度を変える。風の芯を狙って突き抜ける。
ズバァッ!
王の体内で暴れていた風が、一気に四散した。
次の瞬間、巨体は支えを失い、岩の床に"ドシャァン!"と崩れ落ちる。大地の震えが足裏から背骨へ突き抜け、遅れて苔の光がまたひとつ、ふたつと灯り直した。
⸻
残った群れは、王が倒れたのを見て影に解けるように散っていく。風の筋はまだ乱れているが、もはや刃ではない。頬の切創に冷気が沁み、わずかに痛む。
《全員、無事確認》
意識の線に三つの返事が重なる。アリアは弦を外し、細く息を吐く像。アージェは肩の力を抜き、前足を一歩下げる。ノクスは尾を高く掲げ、青い瞳を細めた。
(声が奪われても、俺たちは繋がれる。風が相手でも、風で勝てる)
王の亡骸に一礼して、俺は刀を納めた。
乱れの残滓がまだ吹き抜けていく通路の奥は暗い。けれど、苔の灯りは確かに道を縁取っている。
《進む。二十四層へ》
意識で告げると、三つの気配が同時に前を向いた。
風の余熱の中、俺たちは無言のまま、次の闇へと歩を進める。
評価してくれると、とってもとっても嬉しいです!
初投稿作です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。
あと、AI様にお絵描きをお願いするのにハマり中です。




