深闇の兆し
とんでもないスピードで投稿を続けております。甘い蜜蝋です。みなさんよろしくお願いします。ランキング情報が日々出てきてワクワクしてます。ただ、投稿スピードが異常なのでこっそり修正もしております!ごめんなさい。
蒼晶の眠る洞 第22層
階段を降りた途端、肺の奥に水が入りこんだみたいに呼吸が重くなった。苔の生臭さと、湿った獣の体臭。青白い苔がちらほら光っているが、光は弱く、むしろ闇を濃く塗りつぶしている。
岩壁には、腕ほどもある爪痕が幾筋も走っていた。
「……獣だな」
俺は刀《繋》を抜き、耳を澄ます。水滴、風の流れ、石の軋み、その隙間に、低く擦れる気配が混じっている。
アリアが弓を構え、声を落とした。
「視界が悪い。矢筋が読みにくいわ」
アージェが前に出て低く唸り、銀の障壁を展開する。湿気が弾けて波紋のように揺れた。
ノクスはすでに影へ。青白い瞳だけが闇に二つ、細く灯っている。尾がぴんと立った。同じ“影”を纏う何かがいることを感じていた。
頭上を漂う“映す眼”が、俺たちを俯瞰で追う。ダンジョン都市の広場では、その映像を何千もの瞳が見上げている。
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広場のざわめき
「暗い……」「何も見えない!」
「あの壁の傷、でかすぎる……狼とかかな!?」
子どもが母に抱きつき、老人が不安げに眉を寄せる。だが若い冒険者が拳を握って叫んだ。
「領主様だぞ! 二十一層を越えたんだ、必ず勝つ!」
ざわめきが少しずつ熱に変わっていく。
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苔の光の点々に、赤い光が混じった。ひとつ、ふたつ……やがて十を超える。
影が盛り上がり、黒い毛並みが形を結ぶ。影狼。輪郭は霞み、見据えた瞬間に薄れてはまた濃くなる。まるで闇そのものが狼の姿を取っているかのようだった。
幾重にも重なる低い唸り。空気が押し潰される。
「ノクスと似てる!同じ雰囲気」アリアが息をのみ、弓弦を軋ませた。
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「来る」
風が裂け、一体が矢のように突っ込んでくる。
ギィンッ! 爪と刃が噛み合い、火花が散った。衝撃で腕が痺れ、足元の岩にひびが走る。
アージェが咆哮、衝撃波で奴を押し返す。
「右!」
別の一体がアリアを狙って跳ぶ。振り向きざまの一射
矢は肩口を抉り、黒い血が散った。が、狼は痛みを無視して影に溶ける。
ノクスが影を渡って喉へ牙を差し込む——はずが、輪郭が霧のように崩れ、牙は空を噛んだ。
「影に逃げ込むのか、厄介だな」俺は舌打ちし、呼気を整える。
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赤い瞳が円を描く。数は十数。じわじわと距離を詰め、同時に消えては現れる。
「視界を奪って、数で飲み込む気ね」アリアが矢筒に指をかける。
「なら、こっちは“目”を増やす」
俺は“映す眼”を指で合図し、上昇させる。俯瞰と側面、二つの角度"民衆の目"で死角を潰す。
同時に《情報網》と《並列多重思考》を回す。正面、右、左、天井、足元。影の揺らぎ、足音の途切れ、風の乱れ。
(——来るのは、三。正面・左上・背後)
「正面、俺。左上、アリア。背後は——ノクス!」
言い終わる前に、影が弾けた。
キィン! 俺は正面の爪を受け流し、肘で顎を打ち上げて隙を作る。
アリアの二射が連続で左上を貫き、天井から影が落ちた。
ノクスは背後の影から影へ、尾を鞭のようにしならせて眼窩を裂く。赤い光が一つ、霧散する。
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広場、恐怖から熱狂へ
「当たった!」「倒れた!」
広場の歓声が一段上がる。だが映像はすぐ、別の赤い瞳を映した。
「まだいる、まだ——!」
「がんばれ! 領主様——アリア様——!」
手のひらを合わせる者、拳を突き上げる者。恐怖は祈りに、祈りは声援に変わる。
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影の性質を逆手に取る
影狼は“視られた瞬間に薄れる”。ならば、
見続ければいい。
「アリア、照射だ。矢灯!」
「了解!」
彼女は矢じりに微量の魔力を纏わせ、苔の光を“掬う”。放たれた矢は飛翔しながら淡光を撒き散らし、半透明の光筋を描いた。
闇が薄皮一枚はがされる。影の輪郭が逃げ場を失う。
「アージェ、押し返せ!」
咆哮から銀の障壁が前方へ膨張し、波のように闇を押しのける。足場を奪われた二体が転がった。
ノクスが影から躍り出て、転がる喉に牙を突き立てる。今度は影になれない。
ズブッ——黒い血が温かく靴を濡らした。
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残りが一斉に吠え、俺へ集る。頭数で指揮を断とうというわけだ。
「上等だ、来いよ」
刀を低く構え、呼吸を一段落とす。影が一つ距離を詰めた瞬間、俺は半歩踏み込み、刃の“面”で押す。すり抜けるなら、逃げ道を刃で塞ぐ。
受け流し、叩きつけ、膝で軌道をずらす。刃が“在る”と認識させ続け、影化を阻害する。
アリアの矢が、俺の肩越しに二つの眼を正確に奪い、アージェの体当たりが影の軌道を粉砕した。
ノクスは残光のように一閃字、尻尾がもう一つ影を断つ。
赤い光が四つ、五つ……消えた。残りは三。
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突如、低い唸りが、ひときわ重く響いた。群れより一回り大きい影狼が一歩ゆっくりと前に出、牙を剥く。
毛並みの黒が濃い。輪郭の揺らぎが強い。影への“沈み”が深い。
「……お前がまとめ役か」
奴は一瞬で間を詰め、俺の視界から消えるふりをした。
(右後方)
刃を返し、空を斬る。“空”から血が噴いた。気配の鋭さで“そこにいる”と示し、刃の存在で影化の連続を断ち切る。
親玉が初めて実体の悲鳴を上げ、足を滑らせた。
「いまだ、アリア!」
矢灯が軌跡を描き、親玉の片眼を焼く。
ノクスが影から跳び、残った眼を爪で抉った。
視界を奪われ、親玉が荒れ狂う。岩天井に頭をぶつけ、石片が雨のように降った。
「アージェ!」
銀壁が弾け、突進の軌道を逸らす。空いた胴。
「終いだ!」
俺は踏み込み、袈裟に斬り下ろした。
ズバァッ!
厚い毛皮ごと、影の芯を断つ手応え。
親玉の巨体が、地を抉って滑り、岩壁に
ドゴンッ!と叩きつけられて崩れた。
遅れて、血の匂いが濃くなる。
残った二体が怯え、闇に散る。
ノクスとアリアの追撃により、赤い光は、層から消えた。
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広場
一瞬の静寂ののち——
「「「うおおおおおおおおっ!!!」」」
広場が割れるほどの歓声。樽が掲げられ、子どもが跳ね、年寄りが涙を拭く。
「領主様だ!」「アリア様の矢、見たか!」「狼も猫も英雄だ!」
恐怖は熱狂に変わり、夜風のように広場を駆け巡る。
映す眼は勝利の場をゆっくり舐め、倒れた影狼の巨体、銀壁に寄り添うアージェ、尻尾を高く掲げるノクス、矢を収めるアリア、そして、刀を下ろす俺を映した。
⸻
湿った空気が、少しだけ軽く感じた。
アリアが肩で息をしながら笑う。
「……速かったけど、読めたわね」
アージェは鼻を鳴らし、ノクスは誇らしげにひと鳴きした。青白い瞳が、まだ燃えている。
「二十二層——影狼、制圧」
俺は短く告げ、刀を納めた。映す眼がふわりと輝き、広場の歓声がもう一度、大きく膨らむ。
(見ている全員に、約束する。——この先も、切り拓く)
俺たちは体勢を整え、さらに深く続く闇へ視線を落とした。
評価してくれると、とってもとっても嬉しいです!
初投稿作です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。
あと、AI様にお絵描きをお願いするのにハマり中です。




