四都市のいまを歩く
十五層を抜けた噂が街に定着するまで、そう時間はかからなかった。
だが、俺の仕事はそれで終わりじゃない。むしろここからが本番だ。
「今日は四都市を見て回るぞ」
「領主らしいことをするわけね」アリアが笑いながら矢筒を肩に掛ける。
「冒険の合間に、か」
「合間って言うけど、内政も“戦い”よ」ミーナが帳簿を胸に抱え、真顔で言った。
確かに、剣と弓だけで領地は守れない。人の営みを強くすることもまた、俺の責務だ。
最初に向かったのは、俺たちの拠点であるハルトン。
ギルドの建物前には木材が山積みされ、職人たちが図面を広げている。
「これが拡張計画ですか?」
声を掛けると、ギルド支部長のクローヴェが顎で図面を示した。
「十五層突破の報せで、冒険者の流入が一気に増えた。宿も鍛冶場も満席続きだ。支部を倍に広げ、訓練場も増設する」
「贅沢な悩みね」アリアが腕を組む。
「贅沢と言えば贅沢だが、油断すれば治安が崩れる」クローヴェは真顔に戻った。
「冒険者は金を落とすが、揉め事も運んでくる。剣よりも酒と女で騒ぐ奴らが多い。警邏の数を増やす必要があるな」
「治安強化は私の担当でいいわね」ミーナがきっぱり言う。
「罰則金の徴収方法を整備すれば、治安維持と収益を両立できる」
「頼もしい」俺は笑った。
少し離れた広場では、鍛冶場の火花が弾けていた。
カインが腕をまくり、汗を流しながら槌を振るっている。
「子爵、十五層突破で盾の需要が爆増だぞ! 軽くて丈夫な“受け止め盾”を量産しねえと!」
「腕は大丈夫か?」
「へへっ、問題ねぇ! けど鉄が足りねぇ。テルマから輸送するか、こっちで鉱脈を探すか……」
「鉱脈は俺たちが潜る時に探そう。次に繋がる依頼にもなる」
「助かる!」
ハルトンは、冒険者の街として確実に大きくなっていた。
だがその成長は、同時に“負荷”でもある。
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テルマハルト温泉街
次に馬車でテルマハルトへ向かう。
街の入口からすでに、祭りの準備で賑わっていた。
雪を模した紙飾り、屋台の骨組み、子どもたちが歌の練習をしている。
「冬祭りの準備ね」アリアが目を細める。
「うん。観光客も一気に増えるわ」ミーナが帳簿をめくり、にやりと笑う。
「温泉宿はどこも満室。予約はもう王都にまで広がってる」
さらに街の外れ、山道を登ると、
湯気が立ちのぼっていた。
「ここ、近郊の新しい温泉か」
泉源は小さいが、澄んだ湯が岩肌を流れ落ちている。
「将来的に宿を建ててもいいわね」ミーナが呟く。
「テルマ本街に泊まれない観光客を受け入れる“第二温泉郷”にできる」
「アージェ、ノクス。入るか?」
「ワン!」
「ニャア」
試しに足を浸けさせると、アージェはご機嫌に尾を振り、ノクスは湯気だけ楽しそうに舐めていた。
アリアが笑って二匹の頭を撫でる。「ほら、気持ちいいでしょ」
テルマはもう、ただの温泉街じゃない。
観光都市として育ちつつあるのだ。
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ロックハルト森林街
次は、ロックハルト。
かつては石切りで生計を立てていたロックハルトで今は、森の木々を伐採する音が響き、材木を運ぶ馬車が行き交っている。
カインの声が遠くから飛んできた。
「おう、トリス! 見てみろ、こいつらが新しい加工所だ!」
木材加工所の中には、大きな鋸が据えられ、職人たちが材木を等間隔で切り出していた。
「炭焼きの需要も急増してる。冬支度の燃料はもちろん、鍛冶場の火力も増してるからな!」
「伐採ばかりで森が痩せないか?」
「もちろん考えてる。若木を植えて、伐採と育成を交互に回す。……フレイアにも手伝ってもらってるしな」
視線の先では、フレイアが炎の魔力で木の根を焼き、土を均していた。
「森は切り開くばかりじゃダメ。火で病気を抑え、次の芽を守るの」
ロックハルトは、ただの伐採拠点じゃない。
“森を活かす街”へと変わりつつある。
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グレインハルト穀倉街
最後に訪れたのはグレインハルト。
一面の麦畑は黄金色に波打ち、収穫の歌声が広がっていた。
「すごい……本当に大豊作ね」アリアが目を丸くする。
「ええ。でも、問題は別にあるわ」ミーナが帳簿をめくる。
「倉庫が足りないの。せっかくの穀物を保管できず、値崩れ寸前」
実際、広場には袋詰めされた小麦が山積みになり、雨よけの布に覆われていた。
「倉庫を建てるしかないな」
「石材と木材はロックハルトから、見栄えのいい石材はテルマから運べる。建設費は……」ミーナが暗算をして、小さく頷く。
「可能ね。ここで失えば、街の誇りを削ることになる」
農民たちが俺に気付いて駆け寄ってきた。
「子爵さま! うちの麦を見てください!」
「今年は笑って冬を越せます!」
その笑顔を、絶対に守らなきゃならない。
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四都市を回り終え、馬車の中で息を吐く。
「どこも活気がある。でも同時に、課題も膨らんでるな」
「それが成長ってことよ」ミーナが微笑む。
「誇りと課題は、いつもセットだわ」
「……でも、いい街になってる」アリアが小さく呟く。
その横顔は、戦場にいるときの鋭さとは違い、穏やかで柔らかかった。
俺は拳を握る。
(守らなきゃならない。強さと内政、その両輪で必ず)
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初投稿作です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。
あと、AI様にお絵描きをお願いするのにハマり中です。




