閉ざされた環状の間
蒼晶の眠る洞・第十五層。
岩肌を抜けた瞬間、空気の質が変わったのを肌で感じた。
そこは広間だった。
ただし、ただ広いだけではない。壁も天井もぐるりと円環を描き、俺たちを飲み込むように迫っていた。
光源は蒼晶の反射光。淡い青が壁一面に散らばり、きらきらと瞬く。だがその美しさは息を呑ませるよりも、不気味さを強調していた。
「……閉鎖空間?」
俺が呟いた直後、背後でゴゴゴと地響き。
「っ! 通路が……!」
振り返ったアリアが目を見開いた。
俺たちが入ってきた通路が、音もなく閉ざされていく。石の扉ではない。岩盤そのものが流動し、元から存在しなかったかのように塞がったのだ。
残されたのは
出口のない円環状の広間。
「……やっぱり、ここがそうなのね」
アリアが矢を握りしめたまま、低く呟く。
「《初心者殺し》って呼ばれる層」
「……《初心者殺し》?」
「ええ。ダンジョンに潜ったことのある冒険者なら、一度は噂で聞くはずよ。ここで多くの新人が命を落とした……って」
アリアの声は張り詰めていた。
そして、まるで彼女の言葉を裏付けるかのように、大地が鳴動する。
ゴゴゴゴゴ……ッ!
円環の中央。蒼晶に覆われた床が裂け、暗い穴が口を開けた。
そこから
巨体が這い出してきた。
⸻
それは、亀だった。
いや、ただの亀ではない。
全身を分厚い結晶の甲羅で覆い、岩盤の盾を背に何重にも積み重ねた“要塞”。
鈍重な姿でありながら、その一歩一歩が地響きを伴い、岩盤を軋ませる。
「……《ストラタタートル》」
アリアが名を呟く。
「突進で小隊を丸ごと潰し、矢も剣も弾き返す……動く要塞」
「ワンッ!」
アージェが前に出て唸る。
「ニャァッ……」
ノクスも背を丸め、影を広げて威嚇する。
俺は【真鑑定】を発動し、視界に情報を流し込む。
――――――
対象:《ストラタタートル》
種別:鉱殻獣(中ボス個体)
特性:甲殻防御/突進破壊/地形干渉
危険度:B~Aランク
俗称:《初心者殺し》
理由:閉鎖空間+高耐久+即死級突進による理不尽な殲滅力
――――――
「……やっぱり、名前通りだな」
俺は歯を食いしばる。
⸻
巨亀が首をもたげ、低く唸る。
次の瞬間。
「来る!」
空気が裂ける。巨体が地を蹴り、戦車のように突進してきた。
轟音。
振動。
岩盤を抉りながら一直線に迫る衝撃の塊。
「アージェ!」
「ワォンッ!」
銀の守護犬が飛び出し、障壁を展開。
光の壁が輝いた瞬間、巨亀が激突する。
ガァァンッッ!!!
光と火花が炸裂し、衝撃波が全身を叩いた。
アージェの足が岩にめり込み、背筋を震わせながらも必死に押し返す。
「ガウゥゥッ!」
だが力が違いすぎた。
巨体の圧に押し込まれ、障壁がひび割れ、岩盤ごと滑っていく。
「トリス! 床が!」
アリアの叫び。
視界の端で、押し込まれた床に亀裂が走る。
次の瞬間――轟音と共に岩盤が崩れ落ちた。
「くっ……!」
俺は《武王術》で強化し、アリアの手を掴んで跳躍。
ぎりぎりで崩落に巻き込まれるのを避ける。
背後ではアージェが必死に障壁を張り直し、ノクスが影から飛び出して巨亀の目を狙った。
「ニャッ!」
鋭い爪が眼窩を掠め、亀が怒号のような唸りを上げる。
その隙にアージェが跳び退き、俺たちと合流した。
「ワンッ!」
「ナイスだ、二匹とも!」
⸻
「……これが《初心者殺し》」
アリアが息を整えながら言った。
「突進を防げなきゃ、そのまま押し潰される。攻撃も甲殻に弾かれる。新人じゃどうしようもないわ」
「つまり、罠のような階層か」
「ええ。突破するには“耐える盾”と“的確な突破口”が必須」
巨亀はすでに再び突進態勢を取っている。
甲羅の結晶がギラリと光を放ち、圧力を増していく。
「……だが俺たちにはアージェがいる」
「ワンッ!」
「ノクスも!」
「ニャッ!」
俺は刀を抜き、アリアと目を合わせた。
「ここで退けば、冒険者としても領主としても負けだ」
彼女は弓を引き絞り、静かに笑った。
「わかってる。さあ仕留めましょう」
巨亀が吠え、再び大地を蹴る。
岩盤が震え、閉ざされた環状の間に轟音が満ちた。
――第十五層、中ボス戦開始。
《初心者殺し》の異名を持つ怪物との死闘が幕を開けた。
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初投稿作です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。
あと、AI様にお絵描きをお願いするのにハマり中です。




