ノクスの一歩(13~14層)
蒼晶の眠る洞 第十三層
通路を抜けた瞬間、俺とアリアは同時に足を止めた。
空気がねっとりと重く、吐いた息が白く膜を張るように漂う。
乳白色の霧が洞窟全体を覆い尽くし、わずか数歩先ですら霞んで見えた。
「……これは」
「霧、ね」
アリアが矢を番え、鋭い眼差しを霧へ向ける。
「でも普通の霧じゃない。光を飲み込んでる」
靴音、呼吸、アージェの足爪の擦れる音――それらが幾重にも反射して、耳を惑わせてくる。方向感覚が狂い、まるで深い水中に沈んでいくようだ。
「ワンッ」
アージェが低く唸り、銀の障壁を展開する。だが霧はそれをすり抜け、肌に冷たい膜のようにまとわりついた。
「嫌な感触だ……」
息を吸うたび肺が湿り気で重くなり、鼓動が強調される。
俺は即座に【真鑑定】を展開した。
―――――
対象:霧翼魔
分類:幻霧獣
特性:霧に紛れ、影を媒介に急襲する。
弱点:霧の破砕。影を裂けば本体露出。
危険度:Bランク。
―――――
「……霧そのものが“奴らの体”だ」
「じゃあ、霧を裂けば姿を現すってことね」
アリアが低く呟いた瞬間、背後から冷たい風が走った。
「ッ!」
振り返りざま刀を振るう。だが黒い翼はかすめただけで、肩口に痛みが走る。
「トリス!」
「大丈夫だ。アージェ!」
「ワンッ!」
銀の障壁が波のように広がり、霧を押し退けた。半透明の影が露出する。
「今よ!」
アリアの矢が閃き、鰭を射抜く。だが影はすぐ霧へと消えた。
「速い……!」
俺の歯が鳴る。見えても仕留める隙を与えてくれない。
その時だった。
「ニャッ!」
ノクスが影に溶け、姿を消す。次に現れたのは敵の真下。
「よし……!」
俺が声を上げるより速く、翼が影を反転させた。ノクスの爪は空を切る。
「危ない!」
アリアの矢が割り込み、ノクスを掠める翼を撃ち抜いた。
俺の肩に戻ったノクスは悔しげに牙を鳴らす。
(……影を点から点へ飛ぶだけじゃ、届かないのか)
その瞬間、頭の奥に情報の奔流が走った。
《情報網》がノクスの感覚を拾い、影の流れを脳裏に描き出す。
――影は点じゃない。
光がある限り、影は必ず繋がっている。
線にして、道にして、駆けろ。
「ノクス!」
俺は叫ぶ。「影を“繋げ”! 道にして走れ!」
「ニャアッ!」
ノクスの瞳が蒼光に燃える。地面の影とフォグマンタの影が線で結ばれ、それは一本の“影の道”へと変わった。
その上をノクスは矢のように駆け抜け、敵の喉を切り裂いた。
「ギィィィィィィッ!」
悲鳴が洞窟に響き、霧が一気に晴れていく。
「やった!」
アリアが矢を下ろし、笑みを浮かべる。肩に戻ったノクスは誇らしげに喉を鳴らした。
「……成長したな、ノクス」
俺は微笑み、二匹の頭を撫でた。
白霧が晴れた洞窟には、石床と仲間の息遣いだけが残っていた。
⸻
蒼晶の眠る洞 第十四層
階段を下りた先、視界は再び濃霧に包まれていた。
第十三層よりさらに重く、白さが空気を飲み込んでいる。
「……群れね」
アリアが唇を引き結ぶ。霧の奥で複数の影が蠢いていた。
「けど、ノクスにはもう“道”が見えてる」
俺は言い切った。
「アージェ、霧を押し返せ!」
「ワンッ!」
銀壁が空気を裂き、白霧を押し退ける。
アリアが即座に矢を連射し、露出した影を狙撃する。
「今だ!」
「ニャッ!」
ノクスが線となった影を駆け、次々と喉を切り裂く。
アージェの突進が一体を弾き飛ばし、俺の刀が残りを叩き斬った。
霧は完全に晴れ渡り、石床の軋む音だけが残る。
⸻
「……ノクス、今のは見事だったわ」
アリアがしゃがみ、ノクスの頭を撫でる。ノクスは目を細め、喉を鳴らした。
アージェも鼻を寄せ、二匹が同時に声をあげる。
「これで一歩前進だ。影抜けはもうノクスの武器だな」
アリアは矢筒を背に回し、前を見据える。
「次は十五層。初心者殺しの中ボス……大きな壁が来る」
「上等だ」
胸の奥が熱くなる。
俺たちは二匹を伴い、さらに奥
十五層へ進んだ。
評価してくれると、とってもとっても嬉しいです!
初投稿作です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。
あと、AI様にお絵描きをお願いするのにハマり中です。




