響き穴の罠師
蒼晶の眠る洞・第十一層
そこは、不気味なほど静かだった。
一歩踏み入れただけで靴音が何重にも反響し、鼓膜を揺さぶる。
「……耳がおかしくなる」
アリアが矢を番え、眉をひそめる。
「岩壁が響きすぎてる。普通の洞窟じゃないな」
俺は壁を軽く叩いた。カンッ――澄んだ音が広がり、何度も返ってくる。
「ワンッ」
「ニャッ」
アージェとノクスも落ち着かない。耳や尾をせわしなく動かし、落ち着きなく足場を変えていた。
(……これは“聞かれてる”な)
俺は《真鑑定》を展開する。
―――――
対象:響蜥蜴
特性:音を索敵に利用し、反響を増幅して眩惑を起こす。高周波で敵を混乱。
危険度:Bランク。
―――――
「……やっぱり。音そのものを武器にしてる」
「反響を餌にするなんて……厄介すぎる」
アリアが弓を引き絞った、その直後――。
キィィィィィンッ!
頭を突き刺すような高音が洞窟全体を震わせた。
「っ……ぐ……!」
耳を塞ぎたくなるが、動けば隙を晒す。
「アージェ! 障壁!」
「ワンッ!」
銀光の壁が展開され、鋭い音がいくらか弱まる。
ノクスが影へと溶け、壁面を駆け上がる。
「……いた!」
岩の隙間から浮かび上がった蜥蜴の影を、アリアの矢が正確に射抜いた。
だが――すぐに洞窟全体が一斉に鳴り響く。五つ、六つ……いや、それ以上。
反響が影を増やし、どれが実体か見分けられない。
「囲まれてる!」
「完全に罠師の戦い方だな」
「アージェ! 音の核を潰せ!」
「ガウッ!」
銀光を纏った突進が壁を粉砕し、潜んでいたエコーリザードを弾き出す。
「そこだ!」
俺の刀が閃き、アリアの矢が重なる。
「ノクス、急所を裂け!」
「ニャッ!」
黒い影が走り、蜥蜴の喉笛を裂いた。
次第に鳴き声は減り、やがて完全に絶えた。
静寂が戻る。
⸻
「……はぁ。音に惑わされるのって、想像以上に疲れるわね」
アリアが深く息を吐き、弓を下ろす。
「でも、もう対処法は分かった。アージェが核を潰す。ノクスが影から刺す。俺とアリアで仕留める」
「ふふ、完璧な役割分担じゃない」
アリアが笑みを浮かべ、二匹の頭を撫でる。
「ほんと頼もしい……よしよし、よく頑張ったわね」
「ワンッ!」
「ニャー」
従魔たちの仕草に、自然と笑みがこぼれた。
(……俺たち、いいチームになってきたな)
⸻
蒼晶の眠る洞・第十二層
石段を下りると、反響はさらに異質になった。
試しに声を上げてみる。
「進め!」
『進め! め! め! め!』
返ってくる残響が何重にも重なり、まともに会話できない。
「……これじゃ連携できない」
「なら、《情報網》で繋ぐ」
意識を広げ、仲間たちと感覚を結ぶ。位置、音、敵影――すべてが一瞬で共有された。
「……すごい。声を出さなくても、意思が伝わるなんて」
「便利だろ?」
「便利すぎて怖いくらいね」
アリアが苦笑する。
以降は一言も発さずとも動けた。
アージェが音の核を叩き潰し、ノクスが影から急所を裂く。
俺とアリアの刃と矢が確実に仕留める。
最後の反響が絶えた時、洞窟は嘘みたいに静かになった。
⸻
石段の先に、転送陣が淡く光を放っていた。
第十層で刻まれた腕輪と首輪が反応し、正規の通路が開かれる。
「……十二層突破。次は十三層だな」
「影の濃い場所……そんな気がする」
「ワンッ!」
「ニャッ」
仲間の声に頷き、俺たちは一度だけ振り返る。
静まり返った響き穴は不気味で、けれど“乗り越えた証”として確かにそこに残っていた。
(ここからさらに深く……)
俺たちは十三層へと足を踏み入れた。
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初投稿作です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。
あと、AI様にお絵描きをお願いするのにハマり中です。




