市場の罠と監察の眼
王都市場。
テルマハルト温泉卵の屋台は連日賑わい、昼には列ができるほどだった。
「やっぱり味が違うな!」「栄養があるって本当か?」「旅の疲れに効く!」
客たちの声が次々と上がる。
フレイアは笑いながら卵を茹で、アリアは客の整理をし、ミーナは帳簿をしっかりつける。
「見て、毎日“帳簿公開”って書いて貼ってあるわよ。安心だわ」
「やっぱりトリス領主様は正しい」
王都民の信頼は確実に積み上がっていった。
⸻
だが――。
「……見ろ、これを」
夕刻、俺の前に監察局からの使者が現れ、一枚の書類を差し出した。
「テルマハルト組合の帳簿に“改ざんの痕跡”があると告発が入った」
「……何だと?」
俺は紙を睨む。
書類には「収支の数値が合わない」「価格が二重に計上されている」などの訴えが並んでいた。
差出人は匿名だが、その癖字に俺は見覚えがあった。
(……黒衣商会。やはり仕掛けてきたか)
「監察局は調査に入る。明日、公開帳簿を持参せよ」
使者は冷たい声を残し、去った。
⸻
「やられたな」
アリアが眉を寄せる。
「帳簿は本物よ」ミーナが即答した。「けど、どこかで“捏造された偽帳簿”が出回ってる。市民の信頼を揺さぶる狙いね」
「市場は噂が命だもんね」フレイアが肩を竦める。「“あの領主は数字を誤魔化した”って囁かれるだけで、客足は落ちる」
俺は深呼吸した。
「なら……《情報網》を使う」
⸻
《情報網》
意識を広げた瞬間、情報の糸が俺の中に流れ込む。
だが今回は、俺自身の知覚だけでなく、仲間たちが拾った情報まで伝わってきた。
「……なに、これ」
アリアが驚いた声を漏らす。「頭の中に、私が見たものが流れ込んでくる……」
「私も」ミーナが目を見開く。「今日市場で聞いた噂が……トリスに繋がってる」
「ふふ、面白いじゃない」フレイアが笑った。「“視界の共有”みたいなもんね」
(……これが、俺の《情報網》の変質か)
仲間の知覚が俺に集まり、俺からまた仲間へ流れていく。
まるで一つの神経網のように。
⸻
そして
映った!
裏路地で、黒衣商会の男たちが「偽帳簿」を抱えて密談している光景が。
“領主は数字を誤魔化している”という噂を流す算段を、はっきりと。
「……見えた」
俺は仲間に共有した。
「場所は市場裏、北の倉庫だ」
「よし、突っ込もう!」アリアが弓を構える。
「でも証拠を取らなきゃ意味がないわ」ミーナが冷静に制す。
「任せろ。燃やすのは最後でいいんだろ?」フレイアが指を鳴らした。
⸻
黒衣の商人たちが、偽帳簿を机に並べていた。
「これで十分だ。あの小僧の屋台は終わりだ」
「監察が入れば、領主の信用は地に落ちる」
「残念だったな」
俺は倉庫の扉を蹴破った。
仲間たちが雪崩れ込み、黒衣の連中が凍りつく。
「な、何者だ!」
「領主だよ」
俺は《繋》を抜き放つ。
「証拠を持って、王家監察に突き出してやる」
⸻
短い戦闘だった。
アリアの矢が逃げ道を塞ぎ、フレイアの炎が帳簿以外を焼かぬよう壁を走る。
ミーナは机の上の偽帳簿を一瞬で押さえ込み、ギルドの封蝋を打ち込んだ。
「これで証拠は確定」
黒衣の連中は次々と捕縛され、俺たちは倉庫を後にした。
⸻
「こちらが“偽帳簿”の現物です」
俺は机に置いた。
「さらに」ミーナが声を重ねる。
「帳簿を作成していた商人たちを現行犯で捕らえました。証人として連れてきています」
監察官は目を細め、深く頷いた。
「……王都商人の不正、そして貴族の後援状。全て王に報告し、裁定を仰ぐ」
「これで終わり?」アリアが小声で問う。
「いや、始まりだ」俺は答えた。
「“影”を退け、“数字”でも退けた。次は王の前で正面から勝負する」
フレイアがにやりと笑う。
「いいわね、“陽の下の戦い”。派手にやりましょ」
俺は拳を握る。
(もう隠れるつもりはない。この領地の名を、堂々と掲げるんだ)
評価してくれると、とってもとっても嬉しいです!
初投稿作です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。
あと、AI様にお絵描きをお願いするのにハマり中です。




