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ARTIFICIAL MACHINERY  作者: アズサ
白銀の戦線
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影の爪痕

弾丸の残響が、空を焦がした。


かつて静寂を湛えていた演習場は、いまや瓦礫と硝煙の渦だ。午前の訓練が終わった直後、警報もなく突如として現れた敵性機群が、目前の施設に蹂躙を与えていた。


「応答せよ!敵機、識別コード未登録、複数!」


「司令部との通信断絶。管制塔、応答なし!」


軍通信は悲鳴のように流れていた。指揮系統の破壊と無差別な砲火。狙いがあるとすれば――混乱そのものだ。


格納庫に待機していた〈ヴァリアント・ネイヴ〉は緊急起動を遂げる。整備中であったにもかかわらず、二ヴェルの直接接続により機体は臨戦態勢へ移行していた。


「リオ。制限解除、第三階層まで。……行ける?」


「問題ない。こいつは“戦うため”にここにあるんだろ」


リオは、コックピット内でヘッドギアをかぶりながら答えた。


後方、わずかに見下ろす位置に座する二ヴェルの瞳が淡く瞬く。


彼女の指先が光のインターフェースを滑り――ヴァリアント・ネイヴの両眼、青いセンサーラインが一閃する。


《制御統合、完了。搭乗者の神経同調率:93.4%。安定領域に入ります》


ネイヴのAI音声が告げた瞬間、全身の駆動系に振動が走った。


地を蹴るようにして、リオたちは戦場へと跳び出した。


***


演習施設の南側、破損した壁面の裂け目から外に出ると、そこには《スプリットファング》の機体が4機、残骸と化した旧型機群の間に姿を見せていた。


砂塵に塗れたグレーの機体。だがその背部には、これまで見たことのない外部ユニットが増設されている。


「バースト・パック……?いや、違う、これは……」


リオの言葉が途切れる。


正面の一体がこちらを向いた瞬間、センサーに“あり得ない警告”が走った。


《識別不能なコードを検出。対象はかつての白銀計画所属機体と推定されます》


「白銀計画の……残党?」


《可能性:高。交戦データ不一致、警戒を》


ネイヴの解析が追いつかないほど、高速で変化する識別コード。そしてその一体――全身の装甲が部分的に白銀色に塗られていた。


まるで“白銀機”の模倣のように。


(あれは……紛い物、か)


リオがそう考えた瞬間、敵機の砲口が閃いた。


直後、斜め後方からの弾丸がネイヴをかすめる。


「回避行動、後ろッ!」


リオの声に即応する形でネイヴが跳躍。推進システムが展開され、爆発的な出力で後方宙返りを行い、即座に140mmレールガンを構える。


ターゲットロック。発射。


砲身が青白く輝き、発射音が空間を震わせる。


砲撃は敵機の腕部を吹き飛ばし、機体は膝をついた。


しかし、それでも敵は倒れない。損傷を受けた機体が、狂ったようにリオたちへ突進してくる。


「躊躇がない……感情も、恐怖もないのか」


「強制制御による可能性。人格制御、または無人式」


「まるで、生きていないみたいだな」


言葉と同時に、接近した敵の胴体へ、リオは左腕のビーム刃を叩き込んだ。


鋼鉄の装甲が灼け、内部の駆動系が露出する。そこへ追撃の60mmバレルガンを近接発射――爆発。


砂煙の中で、リオはひとつ呼吸をついた。


だがその直後。地面の下から、“もうひとつの存在”が浮上してきた。


その機体は、明らかに異質だった。


白銀を思わせる鋼の光沢、曲線的なフォルム。そして、センサーラインの色が――赤。


「……あれは」


「第零世代、白銀機。コードネーム未登録。記録照合不能」


「“本物”かよ」


ヴァリアント・ネイヴがレールガンを再装填する間もなく、敵の機体が跳躍。空を裂くような速度で迫る。


そして、頭部のセンサーがこちらを見据え――


瞬間、リオの意識に何かが“刺さった”。


「――あ……ッ!」


頭を掴む。眩暈。吐き気に近いノイズが脳に直接響いてくる。


「干渉信号! 脳波に直接アクセスされてる!」


「遮断処理開始――……追いつかない、思考領域、混濁!」


「くそ……!」


リオが苦悶する中、二ヴェルの指先が空中を走る。彼女の瞳が淡く、鋭く輝いた。


「――ネイヴ、セーフラインを超えて。第二段階、解放」


「了解。ヴァリアント・ネイヴ、ブレイクシール解除――」


次の瞬間。


ネイヴの動きが変わった。


リオの操縦に“重なるようにして”動いたAI制御が、独自の補正を加え、白銀機の攻撃を正確にいなし始める。


ノイズが霧散する。視界が晴れる。


「……ありがとな、二ヴェル」


「当然。あなたが止まるわけにはいかない」


リオはニヤリと笑った。もう一度、レールガンを構える。


「こっちは“模造品”なんかじゃないって、教えてやるよ」


トリガーが引かれ、雷鳴が空を裂いた。


***


戦闘が終わる頃には、演習施設の半分以上が瓦礫と化していた。


《スプリットファング》の増援は現れず、白銀機と見られる機体も途中で撤退した。


回収班が現場に到着し、軍上層部も騒然とする中で、リオと二ヴェルは一時拘束に近い扱いで事情聴取を受けることになる。


だが、リオには確信があった。


あの“赤い眼の白銀機”――

あれは、どこかで自分を“知っていた”。


(記憶なんかないはずなのに……。でも、確かに――“見られていた”)


そして、もうひとつ。二ヴェルの目にも、あの敵機の記憶が微かに残っていたようだった。


彼女は無言だったが、リオの問いにほんの少しだけ、瞳が揺れた。


陽の傾きかけた空が、焦げ茶色に染まりかけている。


 演習地から帰還したリオと二ヴェルは、基地内に設けられたブリーフィングルームへと案内された。そこにはすでに数名の軍高官が集まっており、壁面のホログラムには〈ヴァリアント・ネイヴ〉の出撃記録がリアルタイムで表示されていた。


「人が動かしたとは思えん動きだったな。とくにあの回避パターン、完全にAIが介入していたのではないか?」


 一人の初老の軍人が問いかけるように呟く。


 その言葉に、技術顧問の男が応える。


「AIとパイロットの制御の“同期精度”は98%に達しています。実のところ、あの機体は……」


 言いかけた男の視線が、ドアから入ってきたリオと二ヴェルに向けられる。


 気まずさを覚えたのか、男は口を噤んだ。


 リオは周囲の視線を受けながらも堂々と進み、中央の円卓前に立った。


「失礼します。出撃命令に基づき、〈ヴァリアント・ネイヴ〉の性能試験および戦闘対応テスト、完了報告に参りました」


 その口調は冷静で、堂々としていた。だが、内心には幾ばくかの苛立ちが混じっていた。戦場での経験を、データとして扱われることに。


 二ヴェルはリオの背後に一歩控え、何も言わずに立っている。薄い表情の中に、観察するような鋭さがあった。


「なるほど……」と、別の将校が感嘆の声を漏らす。「少年兵と実験機、そして“かつての白銀計画の残滓”。この組み合わせが、敵傭兵を壊滅させるとは……皮肉な話だ」


 その言葉に、リオはわずかに眉を動かした。


 “白銀計画”。


 今のところそれが何であるか、詳細は語られていない。ただ、ネイヴと二ヴェル、そしてこの戦争の深部にそれが関わっていることだけは、肌で感じ取っていた。


 会議は続く。軍はネイヴの正式採用を早期に決定した。今回の戦果により、同型機の量産も視野に入れているとのことだった。


 しかし、リオはその裏にある思惑を感じていた。――ただの「兵器強化計画」ではない。もっと深く、もっと人間の領域を踏み越えるような何かが、そこにはあった。


「次の任務まで二十四時間のインターバルが設けられている。休息を取れ、少年」


 会議の締めくくりに、老将はそう言った。


 リオは軽く一礼してから、視線を二ヴェルに向ける。彼女はいつもと変わらず、素っ気ない無表情のまま彼を見返した。


 ――だが、その奥底に、わずかな迷いと、言葉にならない感情の波が揺れていた。


 それは、先の戦闘の最中。彼女の制御を超えて、機体が自律的に“護ろうとした”瞬間に確かに感じ取ったものだった。


「なあ、二ヴェル」


 基地の廊下を並んで歩きながら、リオはふと問いかける。


「お前は……ネイヴと“同じもの”なのか? それとも“別の存在”なのか?」


 二ヴェルは立ち止まり、少しだけ顔を傾けた。


「私は、かつて白銀計画で開発された、“制御個体”。でも……いまは、違うと思う」


 その声は囁くように小さく、しかし確かに人間らしい温度を含んでいた。


 リオは数秒黙った後、ぽつりと呟いた。


「そっか。じゃあ、“違う”ままでいようぜ。俺たちは、今のまま、今を戦う」


 少年の言葉に、少女は小さく頷いた――微かに揺れる髪の影に、感情の輪郭が映っていた。


 そして、灰色の空の向こうに、また新たな作戦の影が動き出していた。


 鋼鉄の機体と共に、リオと二ヴェルの“戦い”は始まったばかりだった。

さぁて2回行動です!つまり…誤字脱字、物語の矛盾が顕著に出るのでは?! できるだけ無い様に努めますが… 応援よろしくお願いします。

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