補給と対話
司令室
「君が、リオ=アルヴァレスか…」
スチールデスクの向こうから声を掛けたのは、灰髪の軍司令官──バルセロ・クレヴァー少将。
階級バッジが陽に反射し、リオは僅かに眉をひそめる。
「エルダ=ユニオンの記録に残る少年兵の名。それが君だったとは驚いた。……この機体に乗せたのが偶然ではないと証明されたわけだ」
「過去の記録を持ち出すなら、今すぐこの任務から外してもらっても構いませんよ」
「そうはいかん。君の適合率は計測可能限界を超えている。あの機体を動かせるのは、今のところ君しかいない。しかし君たち二人が、我々にとって“使える兵器”なのか、“制御できないリスク”なのか。そこが問題だ」
その言葉には、明確な試すような意図があった。リオは一拍、沈黙を置いたあと、低く呟く。
「だったら、どっちだと“判断”するんだ?」
空気がぴんと張りつめた。だが次の瞬間、それを破ったのは別の人物の冷静な声だった。
「ヴァリアント・ネイヴは白銀計画に対抗するための独立機体です。汎用の規格や統制下での戦術運用には不向きですが、特殊運用においては群を抜いています」
二ヴェルが、わずかに前へ出て告げる。
「私はネイヴの制御中枢とのリンク維持と戦闘判断支援を行い、リオ=アルヴァレスが最適な運用者であることを確認済みです。現在の戦場状況と敵戦力の変異性を考慮すれば――」
二人でワンセット、というわけか」
司令官が口元を歪めた。
「……ふん。なるほど。そうやって上から通された“規格外”というわけか。だが、ここは実戦前線だ。政治や裏事情に踊らされる気はない」
そして立ち上がると、視線を真っすぐにリオに向ける。
「いいか、少年。俺はお前らを“認める”とは言わん。だが結果は結果だ。あの機体と、お前たちは今や戦場にとって不可欠な要素となった。だから命令する」
「……命令?」
「《ヴァリアント・ネイヴ部隊》の暫定設立と、それに伴う戦術運用データの収集任務。次戦闘区域での前線投入だ」
周囲がざわつく。名目上は「単独部隊」として、リオと二ヴェルは軍の枠の中に置かれた。だがその本質は――
「観察対象……か」
リオが呟くように言うと、少佐は皮肉げに笑った。
「お前のような奴は嫌いじゃないがな。“棘を抜く”ためには、まず“形を見極める”必要がある」
会議が終わると、リオと二ヴェルは無言のまま司令室を後にした。
――が、その背後にはいくつもの影がうごめき始めていた。
誰かが“彼ら”を観察している。
軍内部の情報部門、そして……軍とは異なる、もっと黒い影が。
二人の背中を、光の届かぬ輪郭が静かになぞっていた。
***
格納区画・深夜
無人の格納庫に佇むヴァリアント・ネイヴ。そのセンサーラインが、誰もいないはずの空間でひときわ強く点滅する。
「……何が起きているの」
ネイヴの影に背を預け、静かに問いを口にする二ヴェル。
だが応えはない。
――否。
〈記録:異常挙動パターンB-4、応答性低下。深層制御階層に干渉。〉
〈警告:外部因子による予測不能な振る舞い。——起きてくる〉
電子のノイズと共に、音なき音声が彼女の内に響いた。
二ヴェルはただ黙って、その警告を受け止める。
「……来る」
少女の瞳が、機体のセンサーと重なるように蒼く光った。
***
荒れた砂地を、漆黒の機体が歩く。左肩にあしらわれた狼の紋章――それは《スプリットファング》の象徴。
コックピット内部、鋭い双眸を持つ新たな少年兵が、苦笑を浮かべる。
「白銀の模造品? 面白い……なら、俺が壊してやるよ」
ロボットモノのは難しいですね…年内までに20話は書きます…応援よろしくお願いします。




