第3話 お祝い
「お兄ちゃん! チャンネル登録者が2人になってるぜ!!」
「ほほう」
「まぁ、一人は私だけど……この人配信見てくれた人じゃないかな?」
「ふむふむ」
「私の話聞いてるの?」
ごめん、あんまり聞いてない。だって、正直もうやるつもりないんだもん!
ほら、やっぱりもう真面目にバイトとかしたほうがいいと思ってるんだよね
「あんまり。それよりさ、バイトとかもっとやっていこうかなと」
「お兄ちゃん!! この才能を腐らすのは勿体ないよ!」
うう、肩をゆさゆさとするのはやめてくれ。しかし、俺は恥ずかしいのである。だってさ、男だぞ!!
「男だしさ、恥ずかしいというか」
「お兄ちゃん。2040年なんだから多様性だよ。声が美少女の男の子が美少女Vチューバーになって稼いでもいいじゃない!!」
「そうか?」
「そうなんだよ」
そう言われてもね。何度も思うのだが、俺にはあのスキルが自分の声として聞こえる効果がある。確かに周りには美少女として聞こえるのかも知れないけど。
だけど俺には自分の声として聞こえて、それが可愛いと言われてもね……
「そう言えばさ、昨日のライトセイバーさんって人は俺の声を可愛いとかは言わなかったよね。本当に可愛いと思ってたのかな?」
「いや、絶対可愛い。あの人、惚れちゃってるよ。だから登録してるんだよ」
「そうかな?」
あ、そうなんだ。そうと言われても俺はピンと来ないんだけどね。
「お兄ちゃん! 続けよう!」
「それとそれとして、バイトはしようかな……」
「うーんまぁ、配信続けてくれるなら」
「……あ、まぁ、気が向いたらね」
「気が向かなくてもやってもらうけど」
もう、どうやら強制配信決定のようだ。こうなった妹は俺には止められない。
まぁ、俺を応援してくれてるのは伝わってくるけどね。
「でも、今日はお疲れ様。可愛かったよ、お兄ちゃん」
「そりゃどうも、お前もお疲れ」
「へへへ、お兄ちゃんの労いが何よりも効くチョロい妹ですー」
あらあら可愛いじゃない。そんでもって、片手でピースをしながらニコニコしているのが余計に可愛いなぁ。
「今日はお休み! 明日も頑張ろうね!」
「そうだな」
そう言ってくれるから俺も頑張れるだけどな。だから、絶対に借金は返してあげたい所だ。
高時給のバイトないだろうか。
「お兄ちゃん、無理しないでねー」
「無理するさ。お前のことが心配だから」
「私の心配とかいらないって」
「いや、ほらさ、中学三年生とかになると友達と出かけたりとかさ」
「あー、私ぼっちだから心配いらない」
……そっか、ぼっちか。いや、このコミュ力の塊みたいなのがぼっちになるわけがなさそうだ。
ってことは……前に噂で聞いた……あれかな……?
俺のことを馬鹿にする同級生にブチギレて、机とか椅子を蹴っ飛ばし、そのまま罵詈雑言を吐いたとかなんとか。
いや、本当かどうかの確証はないんだけど……もしそうだったら……
「あー、そっか、ぼっちか……」
「まぁ、ぼっちだろうが、ぼっちじゃなかろうが私の評価は変わらないよ」
「……なんかごめんな」
「なぜ謝るの? つーか普通に周りと話が合わないんだよね。話せると言ったら話せるんだけど……まぁ、ボッチも悪くないぜ? それに、私にはお兄ちゃんがいるんだし」
……こいつ、なんて素敵な妹なんだ!? これ誰が婿でも納得しねぇよ。どうしようか、もう誰であろうと渡せる気になれない。まぁ、本人が愛した人なら誰でもいいけどね。
「それよりお兄ちゃん!!! 謝ってる暇あるならエロい声出してよ!!! それ売るから!!!」
あ、それは無理かも……
◾️◾️
次の日、俺は通っている高校の教室でスマホを使い、情報収集していた。
「バイト、なんかないかな……まぁ、そうすぐに高給とかはないだろうけど」
「おはようございます。勝利くん」
「おっす、太郎」
いつも隣の席に座っている鈴木太郎、俺のクラスで唯一話す男子友達。メガネをクイッと上げる仕草がいつもかっこいいんだよね。
「なにか、見てるのですか?」
「バイト探しててさ」
「ほほう。そして、なにかいいのが?」
「うーんまぁ、そうだな。なるべき稼ぎたいけど割の良いのも簡単にないだろうし。無難に喫茶店とかかな」
「……そうでしたか。バイトを」
まぁ、バイト探すとか入ってるんだけど机の上には『ダンジョンの本』が置いてあるんだけどさ。
いや、諦めてる。諦めてるんだけどさ。毎日俺はダンジョンの本を読んでいたんだ。
確かにもう才能がないのは知ってるけど。だけど、つい癖で見てしまっているのだ。
いや、冒険者とか英雄は諦めてるけどね? 妹にも今後は危ないことしないって約束してるけどね?
「しかし、その下の本はバイトなどする気がないと言っているように見えますが」
「まぁ、ほら、一応ね。でも、冒険者で食っていこうとかは思ってないよ」
「……そうでしたか。勝利くんがそんなことを言うとは……でも、僕としては少し悲しいですね。直向きに頑張る姿は勇気をもらっていましたから」
太郎は俺が冒険者で食って行きたいと言っても笑いもしないし、応援もしてくれてたからな。
こう言うのはあれだが、あまり冒険者を辞めるとかは彼に言いたくなかった。
だって、応援をせっかくしてくれたのにそれを無駄にしてしまうような気がするからだ。
「まぁ、色々あったのに悪いね」
「いいえ、気にしないでください。それより、今後はどうされるのですか?」
「バイト探しをしないととは思ってるんだけどね……そんなに良いのが見つかりそうにないから……またダンジョンで小遣い稼ぎしようかな」
「ほほう」
「あぁ、前みたいにやる気があるとかではないんだけどさ。小遣い稼ぎだよ」
「そうでしたか」
いやね、運動を兼ねてやりたいと思っているだけだからさ。妹はダンジョンで働くのはやめてくれと言っていたけども。
だとしても、なんだかんだで1番稼げるのは冒険者かも知れない。そりゃ、バイトで稼ぐ方が安全だろうけど、稼ぎ慣れたほうがいいかもしれないしさ。
太郎と話しているタイミングで……俺に話しかけてくるもう一人の生徒が現れた。うわぁ、僅かに鹿に入っただけで嫌だよ。
「あれ、冒険者やめたの?」
「そうだけど」
うわ、同級生の藤木沼光一が嫌味言ってきたよ。こいつのこと同級生とも思いたくもないわ。いつもイジってくるからな。
「冒険者は向いてなさそうな顔してるって前から言ってただろ。雑草みたいな顔してるし」
「勝利くん、こんな人の言うこと気にしなくていいですよ」
太郎のフォローが毎回光り輝いているんだよなぁ。それと藤木沼は毎回、イジってくるから腹立つわぁ。まぁ、気にする必要性はないかもしれないけどさ。
「俺はもうBランク冒険者だからな。俺の意見最初から聞いておけばよかったのに。そうしたら無駄な時間過ごさなくて済んだろ」
「あ、そう。そうだな」
「勝利くん、そんな感じでスルーしましょう」
「あのな、人の意見聞いておけよ。そんなんだからお前ら彼女も出来ないんだぞ」
彼女が居るかどうかは今関係あるか? 強引に話が勝手にすり替わったと思うんだけど。
「女子も言ってるぞ。お前らはモテなそうでチー牛みたいとか」
「僕達をどう言うのは勝手ですが、そう言うのってセクハラと同じかと」
「ほら、そうやっていつも論点をずらす! もうちょっと人の意見と真摯に向き合えって」
こいつ……ここで殴ってもいいがそれだと俺達が悪者になってしまう。いや、もう既になっているのかもしれないけども。
「太郎、俺なら大丈夫。藤木沼もそろそろ席戻った方がいいよ。先生も来る」
そう言うと、藤木沼はイジるのが飽きたように席に戻って隣の席の女子と談笑を始めた。
なんだか、ため息すら出ないよ。
「気にしなくていいと思いますよ。必死にやっていたこと、積み上げたことは次に活かせると思いますよ。僕の父もダンジョン冒険者は凡夫でしたが引退してから新たな事業成功したと言ってましたし」
「太郎の父親ってどうやって成功したの?」
「僕の父親は冒険者として伸びなかったのですが、その後、冒険者の武器を提供する仕事の会社を作ったとか。なんでも、弱かったからこそこんな武器で少しでも攻略を楽にしたいとか思っていたらしいですね」
「……なるほどねぇ」
やってきたことが無駄では無かったなんて。そんなことがあったらとは思ってはいたけど。
ならば、あのスキル因子の声は俺を無駄で無かったと思わせてくれるのだろうか。
「あ、姫乃さん……」
「お、おはよ」
「……」
ふと、そんな俺の思考を吹き飛ばすほどの大物がやってきた。
現代に生きる新たな伝説、才能が誰よりも大きいと言われる冒険者。
その凄まじさから【冥剣】と言われるSランク冒険者。
姫乃光
まるで、一人だけ世界が違うような感覚に陥るほどに彼女は覇気を纏っていた。恐らくだが魔力とかが無意識に溢れているのだろう。
強い冒険者は佇まいだけでモンスターをびびらせることもあるらしいからな。
「姫乃さん、おはよう」
「……うん」
彼女は基本的に挨拶を淡白に返したり、無視をする二択である。ただ、割と俺にはうんと返してくれる。
前に彼女のインタビュー雑誌を熱心に見て、冒険者の心得を聞いたことがあるからだろうか。
まぁ、もう冒険者の夢は終わったんだけど。
あ、先生が入ってきた。すると、教室が静かになる。
この瞬間が好きだ。なぜなら、俺の陰口とか言われない気がするからだ。
元々、割と馬鹿にされることはあったけど、馬鹿にされたいわけではないのだ。
はぁーさっさと学校終わらないかな。
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