第五部 時の旅人
「はははっ。ボクをそう呼ぶ人は初めてだよ。あの人だって自分で仕掛けておきながら基本放置だし。死んだ時に話しかけて来るけど」
「そうですか。案外、開き直っているんですね」
「あの人にも『君、もう諦めちゃったの?もっと足掻いてくれた方が面白かったのになー』とか言われる事はあるけど、勘違いだよ。確かにある意味諦めているけど、一方では諦めて無い」
「今回はどれだけ持ちそうですか?」
「さぁね。居場所があいつらにバレるまでじゃない?今生の僕は立場に力が伴って無いから」
「そこはお任せするんですね」
「結局何も変わん無いだろうし、ボクが手を下したとて。死な無い人はいないし」
「本音を言えば、なるべく早く死んでくれた方があなたとしては都合が良いのでは無いですか?」
「理屈で考えたらそうだねぇ。だって、ボクの長い長い旅路の終着点は、ボクのいるべき時だからねぇ」
「今回も違うと」
「分かんない。寝てるオレが起きたらそうなんだろうけど」
「随分とあなたたちに似ていますが」
「かもねぇ。あの人も飽きて来たのかなぁ。四十回目行きそうだし。それか―」
ギルドは目を見開くと、礼を言って帰って行ってしまった。
「こっからどー転ぶかねぇ」
ソウマは椅子に座って頭の後ろで手を組んだ。
「ルールル、ルルールル、ルルルルルルルルー、ルルルルルルー、ルルー、ルールル」
と謎の音程を口ずさんだかと思えば、途端にぴたりと止め、いつものソウマと切り替わった。
何も無い、空白の世界。しかし、そこには文字があった。
『また会えて嬉しいよ。だって、ボクを今こうやって……目を逸らさずに見てくれてるんだから。あっ、でも、姿は見えて無いか。君が見てるのは、直線と曲線の集まりなんだから。君は分かったかなぁ?ボクが誰か。ま、分かんないのが普通だから。気にしないで。物語は、始まったばかりだ』
あはは、と笑い声がする。
『ねぇねぇ、君はさ、あの中で誰が一番“良い奴”だと思う?いやごめん。変な事聞いたね。でも、ボクとこうやって向き合ったんなら、責任はとってくれるよね?この物語は、君の想像力を足して初めて成立するんだ』
僅かに沈黙が訪れる。
『分かんないよね。だって、文章読んでるだけだもん。でもさ、考えてごらんよ。“これ”の姿形は君の頭の中で如何様にもなるでしょ?これから起こる事が、どう見えるかも君次第。今回はここまでにしておくよ』
一体、誰宛のメッセージだったのだろうか?
“Im”




