第四部 暖から寒
「せやな、そりゃそうや。ちゃんと、ええ子にするんやで。また来てや。テルちゃんも姉ちゃんもお母さんもお父さんもタダで入らしたるわ」
アロンはテルルを抱きしめた。テルルはコクコク頷いた。
「ほなまた、さいなら」
今日一番の方言だった。テルルはツーハの元へ行くと、手を振った。
「良いのか?」
「うん……。だって、みんな、テルちゃんきらい」
フウワは返答に困ったが、ツーハは素早かった。
「だいじょうぶ!おいちゃんはテルルすきだった!」
テルルは頷くと、力強く一歩を踏み出した。
(しっかりしてんな。よく分かってる)
「ほら、早く行くぞ」
フウワはツーハを追い立てるようにして歩かせた。部屋から漏れた、嗚咽を聞かせない為に。
「成程なぁ。ちょっとの間よろしくな、テルちゃん」
スインはテルルの頭を撫でた。テルルの耳と尻尾はぴょこんと上がった。
「猫さんやったんか」
「本当だなー」
そんな会話をしている中、アインは一人電話で誰かと話していた。
「―どうですか?この話」
『そうですか……。一応、募ってはおきますが……すみません、すぐには見つけられ無いかもしれません』
「いえ!全然、良いんです。むしろ、感謝してもし切れないというか……」
一方で、イネイは食器を並べながら新しく来たテルルを見る……様にしているのだろうが明らかに違う人を見ていた。カルロウはそんなイネイを見ていた。
(稲狐さんにとっては今が一番良い時期でしょうにねぇ……。鈍いですねぇ……)
「飯だぞ!何のうのうとしてんだ!」
とコウの声がすると、エントは
「コウの語彙が増えてる……」
とかなり失礼な事を言ってアインに半眼で見られていた。
「「頂きまーす!」」
テルルも遠慮がちに食べ始めた。
その夜。ソウマは上体だけなら起こせる様になっており、本を読んでいた。そんな時だった。
「なんで入って来ないんですか?」
すると、ガチャリとドアが開いた。ギルドだった。
「中々、言い辛い事なので、直前まで迷っていたのですよ。あなたの秘密を、知りました」
ソウマの灰色の目は、冷たい光を持って細められた。
「どうやって」
「時の館で」
「どっちの?」
「“碧い方”です」
ソウマは愉悦に満ちている様でどこか裏のある、らしくない笑顔を浮かべた。
「へぇー。そうだね。君はそっちのお気に入りだもんね」
「ようやく出て来ましたか。やはりあの方の言う通りでしたね」
「あの人はボクを客観的に見てるだけでしょ。仕組みは教えてくれたけど」
「そうですね、“時の旅人”さん」




