第四部 ソウマの
「これで良しっと」
ソウマは万年筆を静かに置く。そして、封筒に先程まで文を書いていた紙をしまっていく。小さな字で書いたにも関わらず、五枚に及んでいた。
『そろそろ朝飯の時間じゃないか?』
「そうだね。でも、フウワさんの部屋には寄って行こうと思う」
『勝手に入る気か?』
「違う違う。こうやって穴開けて…」
ソウマは穴あけパンチを使った。
「こうして…」
その穴に紐を通した。
「これをドアノブに掛けとくんだ」
『ふーん。それより、チョコはどうするんだ?』
「食べたいの?」
『違う!ただ、捨てるのもどうかと思っただけだ』
「確かに……。どうしよう」
『もういっその事食っちまうか?』
「やっぱり食べたいんじゃん」
『……』
昼頃。ドアノブの手紙に気付き、フウワはそれを自室で読んでいた。三枚目の途中の文章が滲んでいた。更に読み進めて行くと、四枚目は至る所が滲んでいた。そこに、追い討ちをかける様な水滴が落ちる。
「あぁ……。やっぱりソウマはソウマだ……」
五枚目。フウワに向けてのメッセージだった。それを読み終えると、フウワは封筒に仕舞い直した。穴は塞がっていた。ズカズカと廊下を歩いて行き、ソウマの部屋のドアを開ける。しかし、いなかった。
(図書室か?)
しかし、いなかった。
(いや、今山にでも、行ってるのかもしれないな)
と引き返そうとした時。ソウマとばったり鉢合った。
「「あっ」」
ソウマは足早に立ち去ろうとするが、フウワは肩を掴んで離さなかった。
「へ?ええと、へ「馬鹿野郎!」
フウワの怒鳴り声に、ソウマは縮こまった。
「なんだよ!急にいなくなった時の為にって!そんなの、どっちにせよ好きなら悲しむに決まってるだろーが!馬鹿!」
肩をゆすられながら聞いていたソウマは、ふらふらになってしまった。
「もっと、私たちを頼れ!私も巻き込んだし、これで、おあいこだろーが!」
「……」
「……まぁ、私なんか、好きでもなんとも無いだろうけど……」
「チョコ、どうしようか、迷ってたんだ」
フウワは首を傾げる。
「でも、決めたよ」
ソウマはフウワの手を取る。
「ちゃんと食べるって。その代わり、付いて来て……くれる?」
フウワは真っ赤になって頷いた。ソウマはフウワの手をもう一方の手も使って包み込む。
「後悔するかもよ?」
「……す、する訳あるか!」
フウワは慌てて手を抜き、廊下を走っていった。
『こっす』
「え、急に何?」
『とりあえずお前は狡い』
「急に酷いんだけど?」
一連の出来事を見ていたギャラリーがいると、二人は知らなかった。
みんなのくせ⑧
最近のコウの愛読書は、『サルでも分かる敬語入門』。家事の合間に読んでいるらしい。
目標はソウマに敬語を使える様になる事らしい。




