第二部 涙の廊下道
昨晩の事。ソウマは、いつも通り本を図書室から持って来、部屋でランプの柔らかな光に照らされながら読んでいた。
『飽きないのか?同じ様な本ばかりだぞ』
レッドが痺れを切らした様に話しかけて来た。
「あはは、これはちょっと違う地方のだよ」
『草ばかりじゃないか。どれも同じに見えるぞ』
「そう?全然違うよ。例えばこ『良い良い。どうせまた長々と訳の分からんカタカナの羅列を言ってくるだけだろ?』
なんだかんだ、仲良さげになって来ている。
「もうすぐ零時だ」
『眠くないのか?』
「元々ショートスリーパーだし、寝てもうなされるだけだしね」
ふーん、と短く答え、レッドの声はしなくなった。
「まぁ、僕なんかと話しても、つまんないよね」
その時、ドアがノックされた。ソウマは一瞬警戒したが、見知った妖気である事を感じ取りドアを開けた。
「フウワさん?こんな遅くに?」
「それはこっちの台詞だ。毎晩こんな調子で。本当に大丈夫か?」
「元々三時間しか寝てなかったし」
「だから背が伸びなかったんじゃねぇの?」
「うっ」
ソウマはそれ以上何も言う事が出来なくなった。
「……ちょっと、入って良いか?」
フウワは俯いたまま尋ねる。ソウマは少し憂げな顔になった。
「……いいよ、散らかってるけど」
二人は部屋に入り、座布団の上に座って向かい合った。少しの沈黙のうち、フウワが口を開いた。
「え、えと、なんというか、その……。本当は、バレンタインに渡そうと思ってたんだけど……」
とチョコレートを渡して来た。ソウマはフウワを見詰めた。
「……フウワさん。すごく嬉しいし、僕も多分、フウワさんの事……好き、なんだと思う。でも、ずっとここにいれる保証もないし、フウワさんを悲しませたくない。無責任にいいよなんて言えない……」
ソウマは泣くのをこらえながらそう告げた。
「だから、これは受け取れない……」
フウワは耳をペタンと閉じ、足早に立ち去って行った。ソウマはいよいよ涙を流し始める。
『馬鹿だな、お前。色恋に責任もクソもあるかよ』
「分かってる……分かってるよ……」
『お前はそういう奴だって、死ぬほど分かってるけどな』
ソウマは本を持って図書室に向かった。本を手際よく戻していく。
(植物図鑑、全部読んじゃったなぁ……)
ソウマは別の本棚に移った。小説の所だった。ソウマはなぞる様に本の背表紙を眺めていく。ふと、立ち止まった。
『どうした?……いや、なんか妙な気が漂ってるな』
タイトルは、『こんこん紀行記』だった。
みんなのくせ⑥
ソウマが読んでいた植物図鑑の冊数は、約二千五百冊である。




