プロローグ エントの覚悟
三月。火狐はいつもの時間に起き出したが、物思いに耽っていた。
「丁度、今日だったけな……」
そんな独り言を呟き、時計を見ると慌てて階段を下りた。丁度ソウマが歩いていた。
「おはよう、ソウマ!」
しかし、心が別の所にある様だった。
「あ、……うん、おはよう……」
エントは首を傾げたが、ソウマは逃げる様にして足早に去っていってしまった。
「まぁ、俺も人の心配してれる程余裕ねぇんだけどな……」
皆が揃い、朝食となったのだが、フウワとソウマはやけに静かな上、エントは考え事をしており、他のメンバーもそんな雰囲気のせいで談笑する事を控えてしまった。フォニックス始まって以来の静けさだった。
(うぅ……みんなまで静かじゃ余計憂鬱になっちまうじゃねぇか……)
エントは食べ終えると外の空気を吸いに玄関先に出た。すると、ギルドが来ていた。
「ああ、エントさんですか。丁度良かったです。少し、お話ししてもよろしいでしょうか?……図書室の部屋で」
フォニックスの本拠地には図書室が何故かあり、更に各々が集中して読める様に防音などの工夫が凝らされた部屋が複数あるのだ。エントはとても重要な事を話すのだと感じ取った。なので、頷くだけだった。
「ふぅ。では、手短に話させて頂きますね」
二人はその一室に入って鍵をかけた。
「あなたは、とある技を習得する事が出来る一族の血筋ですよね?」
エントは固まった。ギルドはそれを肯定とみた様だ。
「私は習得方法こそ知りませんが、少し噂を聞いた事がありまして。……その技を、狙っている組織があるそうです」
エントは思わず立ち上がった。
「おそらくブラックスかと。仮に彼らだとすれば、一族の者を探し、聞き出そうとするでしょう。……殺してでも」
ギルドはエントを確と見詰めた。
「そこで、あなたに習得してもらいたいのです。そうすれば、誰も手に入れられないのではないですか?」
「……はい。その技を習得出来るのは世界でたった一人だけです」
「無理そうですか?」
「俺はあまりにも分不相応過ぎるかもしれませんが……もう、家族を失いたくはありません」
「……当然、これは一人でしか行けませんが「やってみせます」
エントの目には、くっきりとした光があった。
「では、死なないように、頑張って下さい」
エントは誰にも気付かれない様に出発し、いつもとは違う道で目的地へ向かった。黙々と進んだ先には、一見普通の鬱蒼とした自然林であった。
「……行くか」
エントは、大きな一歩を踏み出した。
みんなのくせ①
スインが異常にマイペースなのは、走らずに目的地へ時間内に辿り着く為である。
つまり、一見何も考えていなさそうだが、実は常に計算をしているという事である。
ちなみに、走りたく無いないのは戦闘前に体力を消費したくないから。




