プロローグ 思い出の場所で
十一月。スインは中庭で一人、思い悩んでいた。スインは的に向かって撃つ。見事に中心に当てたが、問題はそこではないのだ。
(この前までは的壊せとったのに……)
スインはすっかり煮詰まってしまった様で、気晴らしにと出掛けた。
(久しぶりに、あそこに行こか)
しばらくして、ゴミ一つない海岸にたどり着いた。日光を受けて美しく輝く海。しかし、砂浜より奥に行くと……。
(大分崩れてしもたな……。中に入るのはもう無理そうや)
大小様々な建物が屋根が崩れ落ちているもの、焼けているものなど、あまりにも無惨な姿でそこにあった。スインはしばしその風景を眺める。しかし。
「張り込んでいて良かったぜ。ようやく見つけたぞ」
スインは不意打ちをくらい、更に手早く縄で捕まえられてしまった。スインは目隠しを付けさせられ、何処かに連れ去られてしまったのだった。
スインが目隠しも縄も外され、自由になったのは牢屋の中だった。襲って来た者達が去って行くと、隣の牢屋に入っている者が話しかけて来た。
「初めまして、スインちゃん。エムルだよ!」
「え、なんで、私の名前知っとんの?」
「僕は君が知らない君も知ってるよ。まぁ、それはさておき、なんでこんな所に連れて来られたか、分かって無いでしょ?」
「……うん」
「ここは『ブラックス』っていう悪い組織の支部だよ。強い奴らをこうやって集めてるらしいよ。本当は捕まってすぐにでも脱出したかったんだけど、近々君も来るかもしれないから一緒に脱出する様にしろって言われちゃって」
「誰に?」
「父さんだよ。さぁ、一緒に脱出しよ?……囮になるから他の奴らも」
最後はあえて小さい声で言った。
「でも、鍵かかっとるで?」
「それは心配しないで」
エムルは石を出した。
「姉さんがいない!」
一方、フォニックス本拠地ではアインが大焦りしていた。
「どっか出掛けてるんじゃないのか?」
「でも、朝ごはんの時間になっても帰って来ないし……なんとなく、嫌な予感がする」
「でも」
コウがパンをテーブルに置く。
「とりあえず朝飯は食ってけ」
「分かった」
「ほら、これでスインちゃんの出来た」
エムルは石を巧みに変形させて鍵を作った。
「なんで形まで分かったん?」
「さっき見たからね。ちなみに僕のも毎日見てるから作れるよ」
エムルは瞬く間に五個作ってしまった。
「これ以上は分かんないや。でも、時間もそんなにかけてられないから見張りの巡回の合間を縫って脱出するよ」
スインは何も言わずに頷いた。
キャラクター設定㉒ エムル
エムルは基本おちゃらけた感じで。しかし、少しミステリアスにすることも意識しました。
次回もありません。




