第四部 ひとつの願い
(……仕方ない、死んだら元も子も無いからな)
ソウマは駆け出し、ハエトリソウを出した。相手はガードを張った。しかし、次の瞬間背後から技を受けていた。
「一体何が……」
ソウマの目は赤かった。
「すげぇ……ハエトリソウを足場にして相手のガードを跳び越えやがった……」
遠くから見ていたフウワはただ感心していた。
「これで、もう動け無いだろ?」
敵は倒れ込んだ。
「この一撃を決めさせてくれたお礼はしておく。だが、いつまでもこの体の所有権を握っていられると思うなよ」
ソウマの目は灰色になった。
「……ふぅ」
「ソウマ!大丈夫だったか?」
「うん。それより、迷惑かけてごめんね」
「全くだ」
オスコが会話に割り込んで来た。
「あれ?ロル君は?」
ロルは、狼の名前である。
「どっか行った。あいつ急に消えて気付いたら帰って来てんだよ」
その時、茂みが揺れ、狼が顔を出した。
「ロル君、久しぶり」
「ウォウ」
ロルは大人しくソウマに撫でられている。
「私にはブラッシングすらさせないくせに」
「ロル君は本当にソウマさんが好きなんでしょうね」
イネイがライオンに若干驚きながらもそう言った。
「おーい!いるかー?」
ライトが駆け寄って来た。
「なんでここだと分かったんだ?」
フウワは首を傾げた。
「なんとなく、ソウマは必死に護りたい場所はここだろうなって」
「……お前、こういう時だけ無駄にかっこいいよな」
「いつもとそんなに変わらねぇよ?あと無駄にって何?」
「兄者ー!」
「あ、みんな来た」
他の皆も息を切らしながらやって来た。
「ごめん、また迷惑かけた」
ソウマは頭を下げたが、皆はいーのいーの、という感じであった。
「ソウマ君はいっつも頑張っとるし」
「どこぞの誰々さんと違ってな」
ライトとエントが目を逸らした。
「そそ、困った時はお互い様でしょ?」
アインがそう言うと、オスコは
「同じ氷属性でこうも性格が違う事があるのか?」
と誰にも聞こえない様に呟いていた。
「さぁ、帰るぞー」
ライトは歩き出した。それにつられる様に、他の者も歩き出す。オスコは彼らが見えなくなるまで手を振っていた。
「とっとと飯食うぞ」
コウがテーブルに料理を並べる間に、皆は洗面器に押しかけた。
「一時はどうなる事かと思ったぜ」
こうしてソウマが無事に帰って来た事を何よりも喜んでいるコウだった。
「飯だー!」
「廊下走んな!」
そして、いつものフウワの打撃に撃沈する兄弟であった。
(こんな日常が、ずっと続いて行きますように)
それは、小さい様で大きな願いであった。




