第三部 幻の技
ソウマと知らない草狐が向かい合っていた。勿論、険悪な雰囲気で、ソウマの目は赤かった。お陰で、二人は二度驚かされる事になった。
「もう一人のは覚えて無いだろうが、俺は忘れちゃい無い」
「どちらでも構わん。“ソウマ”である事には変わり無いのだろう?」
「それもそうだな」
二人は戦い始めた。フウワは加勢しようとしたが、イネイに手を引かれた。
「どうした?」
イネイは振り向いた。緊迫した顔だった。
「……血の匂いがします」
フウワは逆にイネイの手を引いた。
「何処だ!」
「あっちです!」
二人が懸命に駆けて行くと、左腕が真っ赤に染まりぐったりしているオスコがいた。
「おい、大丈夫か?」
「……ああ。それより、あいつの心配をした方がいい」
「でも、病院には連れて行きます」
二人はオスコを運び始めた。
(また出た、もう一人の僕。こうやってなんの抵抗もしないまま人殺しとして、後戻り出来なくなって行くのか?)
内に潜ったソウマは思い悩んでいた。勿論、相手を攻撃する手は止まらない。しかし。
「お前が俺に勝てると本気で思ってるのか?おめでたい奴だ」
相手の方が強かった。ソウマは既に満身創痍であった。
(僕自身もそうだけど、このままじゃ、今山のみんなも、フォニックスのみんなも……)
ソウマの足元が黄緑色に光り始めた。それはどんどん広がって行き、隠していたギュー君の所まで広がった。
「なんだ?これ」
フウワは不思議そうにしていたが、イネイは驚きで固まっていた。オスコの傷が猛スピードで回復して行く。
「なんかすげー!」
エントは目の前の動物たちが一斉に正気に戻ったのを見、興奮していた。
「これ、ソウマの妖気じゃ無いか?」
ライトがそう言うと、エントは頷いた。
「だな。やっぱり兄者の勘は当たってたみたいだ」
今山から、強烈な妖気がしていたのだ。
「なんだ、この技」
相手は戸惑ったが、それは本人も同じである。
「グラスヒールです!」
イネイが叫ぶ。
「随分前に継承者が途絶えた、幻の技です!」
「……はぁ?」
ソウマ、と言っても別人格だが、は思わずそう言ってしまった。
「俺……は」
相手は血が出るのでは無いかという程に手を握り締める。そして、歯も食いしばった。
「お前の、そういう所が気に入らなかったんだよ!」
おそらく彼の最上級の攻撃、大量の松の葉の様な鋭く尖ったものが大量に飛ばされた。しかし、ソウマは『避けなかった』。
「一時休戦。こんな時ぐらいは協力しようよ」
そこには、いつものソウマがいた。




