プロローグ 急な失踪
十月。随分と寝心地が良くなる時期だが、ソウマは相変わらず寝ずに本を読んでいた。
(寝てもすぐ起きちゃうし、いい事無いんだよな)
ソウマは本を読みながら鳥の鳴き声を聞き、朝を感じた。
「みんなが起きて来る前に片付けるか」
ソウマは高く積み上がった本を本棚に戻して行く。突如、静かな朝の街が騒がしくなった。ソウマは外に飛び出た。そこには、一頭の荒ぶる牛がいた。通行人を襲い、突進して壁を凹ませていた。一見するとただの暴れ牛だ。しかし。
「ギュー君!」
ソウマは牛の目の前に立ち真っ向から突進を受け止めた。ソウマはよろめきながらも牛の角を掴む。
「ギュー君、どうしたの?」
牛は手を振り解こうともがくだけだった。
(やっぱり、何かがおかしい……)
ギュー君と呼ばれた牛は、今山の動物であった。
「ごめんね」
ソウマは牛を気絶させた。そして、フォニックスの皆にも見えないよう倉庫に隠すと、今山に向かって走り始めたのだった。
「いいですって」
『いいんですよ』
一方、珍しく早起きしたライトは、イネイと電話していた。
『今年は豊作だったんですよ。それに、まだお返しも出来ていませんでしたし……』
イネイが、お礼に米を渡したいと言って来たのだ。
「いやでも、流石に量が…」
『では!後ほど!』
見事に電話を切られてしまった。ライトは仕方ないと諦めて部屋を出る。食事室に向かうと、コウが近付いて来た。
「ソウマさん知らないか?」
「知らないぞ。まだ図書室にいるんじゃ無いのか?」
「いや、いつもなら俺を手伝ってくれてる」
「そうか……」
二人が話していると、誰かの悲鳴が聞こえた。ライトが素早く階段を上ると、エントが見えた。
「なんだただのエントか」
エントは自分の部屋のドアにぴったりと体をくっつけ怯えていた。
「で、でっかくて、すっげぇ妖気の鳥が……」
「どういう事だ?」
ライトが首を傾げている間に誰かが来たようだ。二人で下りて行くと、イネイだった。
「朝早くから失礼します」
イネイは大きな俵に入った米を持って来た。
「ありがとな、イネイ」
コウがそれを受け取ると、イネイは怯えているエントを不思議そうに見詰めた。
「イネイ、でっかい鳥見なかったか?」
「私を送ってくれた人ですよ」
「そうなの?」
エントは胸を撫で下ろした。
「あ、そうそう」
ライトはエントに話しかける。
「ソウマ見なかったか?」
「なんでだ?」
そんな二人にイネイが近寄る。
「誰かお探しですか?それなら、私に任せて下さい」