第五部 いよいよ到着
「……」
最初なのにとてつもなく不穏な雰囲気が漂う依頼に、一同は押し黙ってしまった。依頼人の名前はどこにも書いておらず、その不自然さも余計に不安を煽った。その沈黙を破ったのは意外にもアインであった。
「あいにく、この文章に嘘は感じないよ。やるしかないみたい」
「なんでそんなことが断言出来るんだ?」
エントが不思議そうに尋ねる。
「私の特殊能力は“嘘見抜き”なの」
特殊能力。それはこの世界の誰もが持っている能力であり、それが被ることは無いと言われている。これは身体能力の強化やアインのものなど抽象的なものまで多種多様だ。アインは依頼人が嘘をついていないか確かめるためフォニックスにいるのだ。
「まぁ、ここで何言っても行かなあかへんしな」
スインはそう言うと支度をし始めた。アインもそれにつられる様にし始め、結局全員が行く事になった。
「アインは行く必要あるのか?」
ライトの質問にエントとフウワも共感した様に頷く。
「私がフォニックスに入ったのは戦闘力を身に付ける為でもありますので。足手纏いになるかもしれませんが……」
「それは全然気にする事じゃないと思うぞ。俺たちだって最初からあんな動物相手に戦えた訳じゃ無いしな。あと、敬語、使わなくて良いぞ。仲間なんだからさ」
アインは少し嬉しそうに頷く。感情が分かりやすく表に出てしまっている辺りがまだ子供らしい。
「分かった。出来る限りのサポートはするから」
「じゃあ、出発するか!」
一同は本拠地を飛び出し、最初の依頼への一歩を踏み出した……が、先述の通りこの世界には乗り物がないので少々時間がかかる。残念ながら実際の戦闘は次回にお預けである。
「やっぱり不便だよな。一人くらい瞬間移動持ち入れてくれれば良かったのにな。というか、ギルド様が送ってくれれば良かったんじゃないのか?」
エントは色々言っているが、全員内心思っていた事なので咎める事も出来ず野放しにしている。
「初日早々文句を言うとは、中々勇気のある人の様ですね」
後ろからその声が聞こえると、エントは固まってしまった。彼の後ろには、つい先程彼が文句を言ったギルド様。エントは恐る恐る後ろを振り向いた。ギルド様は紫の炎を手に纏わせた状態だった。結局、エントは本気で謝り、ギルド様の瞬間移動で今山の手前まで連れて行ってもらったのだった。今山。町の近くにある割には千メートル近くある高い山である。フォニックスたちは意を決して登山道を登って行った。
キャラクター命名秘話④ アイン
アインは氷で姉と似せると考えた時、漢字から取るのを諦めました。
「ice」+「ン」
次回はフウワです。よろしくお願い致します。