第四部 忘れない事の大切さ
ソウマが戦っていた相手は無惨な姿になっていた。
「おい!そこまでする必要あったのかよ!」
エントはそう話しかけたが、振り向いたソウマはいつもと違った。目だけでなく両手まで赤く染めた彼は、エントを睨んだ。
「誰だ。こいつの仲間か」
そして、葉を刃の様に変形させた。
「ソウマ……?」
「もう一人の俺の名前か。つまり、お前はそいつに会いに来たのか。どちらにしろ、お前の運命は変わらんがな」
彼は葉の刃をエントに飛ばして来た。エントはそれを避けながら彼に近付く。
「ソウマ!お前にはもう会えないのか?」
彼の動きが止まった。その隙にエントは彼の肩を掴み、前後に揺らす。
「帰って来い!ソウマ!」
目の赤がだんだん薄まり、灰色に戻った。
「あれ……?僕、何してたんだろ……」
ソウマは辺りを見回す。自分の手も。
「そっか、僕……」
その後の言葉をエントは聞き取れなかった。しかし、ソウマが涙を溢し始めると、近寄って頭を撫でた。
「ソウマ。多分だけどさ、戦うって言うのは、こういう事の繰り返しなんだと思う。戦士は汚れ仕事なんだ。でも、確かにその気持ちは分かるぜ。だからさ」
ソウマはチラリとエントを見る。
「忘れないでいてやろうぜ。殺すのは当たり前になっちゃダメだと思う。特別な事は、忘れないだろ?」
ソウマは静かに頷いた。
「それに、次からは俺が止めてやる」
ソウマは立ち上がった。
「絶対だよ?」
目が赤くなっていたが、その瞳は真っ直ぐに前を向いていた。
「じゃあ、戻ろうぜ」
その頃には、全て終わっていた。ソウマとエントが現れると、皆は心配したが、ソウマは思いの外立ち直っていた。
「皆さん、本当にありがとうございました。報酬は後日でよろしいでしょうか?」
「いえいえ」
一同はギーヨの瞬間移動で帰った。残ったのはキョウだけ。ギーヨが来るまでの間、散歩でもしていようと思い森に足を踏み入れると、少し血生臭かった。そこにはソウマが忘れないと誓った者がいた。
(こうやって殺し合って、勝者だけが残って行くのか。いくら綺麗事を言っても、僕らはそうやって生きて行くしか無いのかな?)
キョウがぼんやりしているうちに、ギーヨが帰って来た。
「キョウは先に帰っていて下さい。僕は少ししたい事が出来ました」
キョウはそのまま宮殿へ向かった。皆が大層心配してくれた。
「別に何とも無いですよ?」
「一国の王の側近が攫われるなど一大事ですよ」
キョウはこの出来事によって自分の立場を再確認したのだった。




