プロローグ 復讐の始まり
九月。猫の国では、一人の男がため息を付いていた。キョウである。キョウは自分の住まいから宮殿に出勤していた。王の側近も複数おり、位によって宮殿に住むか住まないかが猫の国では決められていた。
「はぁ。ギーヨ様、きっと昨日のやって無いですよね……」
王の側近は軍と共に戦う事も珍しく無いのだが、キョウはあまり戦闘に秀でておらず、ギーヨの仕事の補佐をしていた。
「『戦う時が来たら分かります』って言われても……僕実戦どころか練習すらした事ありませんよ…」
キョウは色々ぼやいていた。すると、仕掛けられていた落とし穴に落ちてしまった。
「え?何?」
戸惑っている間に何者かが現れ、連れ去られてしまった。
「キョウさんが失踪した!?」
それから一時間後。フォニックス本拠地にギーヨがやって来、そう伝えた。
「チーナさんに確かめて貰ったのですが、どうやら攫われた様です」
「キョウさんを易々と捕まえられる様な奴に私たちが太刀打ち出来るのか?」
フウワはタメ口である事も忘れて話した。
「キョウは皆さんより弱いですよ?」
「「王族なのに?」」
珍しくスインとアイン以外の者の声が揃った。
「キョウは僕よりも賢いですが、運動はからっきしなんですよ」
「王族さんも人やからなぁ」
スインは別段驚いていなかった。
「どうか、手伝って頂けないでしょうか」
ギーヨが頭を下げると、皆は困惑する。
「頭を下げられる様な身分じゃありません!」
「上げて下さい!」
ギーヨは頭を上げた。皆はほっと胸を撫で下ろす。こうして、一同は急な任務に向かったのだった。
「ここです」
ギーヨは瞬間移動をしたが、動揺で間違えたらしい。相手の目の前に来てしまった。しかも、蛇であった。
「餌に釣られてのこのことやって来たか!」
と言いながら相手は襲って来た。しかし。
「僕の部下を餌呼ばわりしないで頂けませんか……?」
とギーヨは冷え切った声で言い、瞬きをしている間に倒してしまった。
「蛇の国の残党で、質より量だそうです。どんどん倒して行きますよ」
皆は豹変したギーヨに若干怯えながらも戦い始めた。
「来たぞ!警備を固めろ!」
思ったよりも多くの人が来た。中には蛇以外の者も混ざっているが。各々が飛び出す中、スインは立ち止まったままだった。そして、そのまま透明になって隠れる。道の脇は森だったので、木の幹の裏に回り込んだ。すると、銃弾のような遠距離攻撃が飛んで来て隣の木に当たった。
(狙撃手がおるみたいやな)
最も静かな戦いが始まろうとしていた。




