第四部 交わる糸
ライトは煌々と輝く月を指差した。穏やかな表情を浮かべているライトとは反対に、イネイの心の中は非常事態だった。
(月が綺麗って……いや、普通に言ったかもだし!自惚れるな私!)
「どうした?顔赤いぞ?暑いのか?」
「はわっ」
「?」
ライトはイネイと目線を合わせた。
(ああぁぁぁ!顔が近い!)
「熱でもあるのか?」
「いえ!大丈夫です!」
イネイは素早くライトから離れた。
「そうか?まぁ、ならいいか。ちょっと、場所変えてみないか?」
ライトは本拠地に戻ったが、騒がしい食卓には戻らず、二階へ上った。イネイもそれに続く。
「ここだ」
そこは裏庭に面したベランダで、裏庭方面には木しかなかった。
「なんか、高さ変わると雰囲気違う気がする。俺だけかな?」
「ライトさんって、星好きなんですか?」
「んー、特には。でも、今は、なんか」
ライトはベランダのへりに頬杖をついた。
「そうですか……」
(一緒にいれて嬉しい……はずなのに胸が締め付けられる様に痛い……)
イネイは俯いた。
「どうした?」
とライトは顔を近づけるが、すぐに離した。
「もしかして、俺酒臭かった?イネイは鼻が効くから……」
「い、いえ!酒の匂いなんて日常的に嗅いでましたし!」
「それか、ヒノガが重たかったのか?」
「ま、まぁ……はい」
「じゃあ、今日はもう休んだらどうだ?もうパキラが一晩やってくれるだろうし。ゆっくり風呂入って……」
ライトは言葉を止めた。イネイがポロポロ泣いていたからだ。
「お、俺、なんかヤバい事言った?」
「いえ……ちょっと、安心したんです。ライトさんが無事で」
「まぁ、ソウマの事は言えなくなったけどな。最後の最後で無茶したし」
「過程がどうであれ、無事に帰って来てくれたなら私はそれ以上に嬉しいことはありません」
ライトは、そっか、と言うとベランダから中に入った。しかし、イネイはそんなライトの袖口を掴んだ。
「ライトさん……もう後悔なんてしたくないので、全部伝えます。私は、あなたが好きです」
イネイはライトをベランダに引き戻し、ドアを閉めた。
「あなたを初めて見た時からずっと、太陽みたいな人だと思っていました」
ライトはその場に立ち尽くしていた。
「……え?」
「……そう、ですよね。私みたいなの、別に……」
イネイは勢いよくドアを開けたが、ライトはイネイの肩を掴んだ。
「ありがとう」
ライトはイネイの腰に手を回し、抱き寄せた。
「俺も大概臆病だな」
ちなみに、翌日酔いが覚めたライトは流石にいきなりハグはよくなかったかと思ったそうだ。




