第五部 アノ日
一方、何も知らないウルベフのボス、ハクムは部屋でうたた寝をしていた。
『おい、聞いているのか』
と、突然ハクムは向かいに座っていた兎耳の男に睨まれた。
(**?って事は、これは昔の夢か?)
「何だっけ?」
とハクムがおどけて言ってみせると、その男の左に座っているショートヘアで黒髪、そして垂れた犬の耳を持つ女に、
『そこがお前の悪い癖だ。全く、真っ先に死んでも知らないからな』
とピシャリと言われた。
(こいつもいる……。この会話、まさか……あの時の前?)
ハクムの左隣にも牛の角と耳を持つ男がおり、腕を組んで黙っていた。
『おい、バロン。お前も何か言ってやれ』
と**は言ったが、バロンと呼ばれた人物は黙ったままだった。
『まぁ、良いだろう』
と言って女は立ち上がった。
『お前なら、そこに書いてある地図で大体分かるだろう』
女と**は立ち去り、バロンと二人きりになった。
(そうだ、ここでこいつと二人きりになって……)
ハクムは地図を見た。すると、ようやくバロンが口を開いた。
『もうすぐ、やな』
「そうだな」
『帰っても、やる事あらへん』
「じゃあ……」
ハクムはそこで言葉に詰まった。
(死にたいってか?なんて、言える訳ないだろ……。そんな洒落にならん事)
『どうした?』
「いや、なんでもない。兄貴と仲良くしろよ」
『嫌やわ』
「なんだそれ」
バロンは僅かに微笑み、ハクムは声を出して笑った。その時、女が戻って来た。
『そろそろ行くぞ』
バロンは頷き、ガスマスクと槍を持って部屋を出た。ハクムは一瞬戸惑いながらもそれに倣った。
場面が切り替わった。ハクムは陽の差し込む河原に横たわっていた。川は真っ赤に染まっていたが、それに逆らって人々が駆けて行った。その一人が、
『前衛隊の開いた道を無駄にするな!』
と叫んでいた。ハクムはむくりと起き上がった。
(変わらなかったか……。勝っても嬉しいとは限らないって、この時思って泣いたんだっけか……)
その時呻き声が聞こえた。
(ああ、そうだ。ここでバロンを助けて、あいつはもう人の形をしていなくて、**は消えたんだよな)
ハクムは河原を川の流れに逆らって歩いた。なるべく風景を見ない様にしながら。
また場面が切り替わった。ハクムは病室にいて、バロンがベッドに横たわっているのを見ていた。バロンは眠っていた。
(優秀な百人による突撃で相手の戦力を削いで占領する……。俺たち、よく頑張ったよな)
ハクムはそこで目を覚ました。
「……嫌な夢だ」




