第四部 それぞれの準備
翌日。エヴェルは一人、シンたちのいる町の廃坑の中にいた。置き去りにされたトロッコは茶色くなり、レールも最早その役目を果たせそうになかった。エヴェルはそんなトロッコの縁を指でなぞった。
「結局、あいつもやられたか。あいつは余りにもライトとやらに肩入れしていたからな」
エヴェルはトロッコを自らの技で粉砕した。
「ただ待っているだけではつまらんな。少し前座をしておいてやろう。早く来ないと、この町は滅ぶだろうよ、フォニックス」
時を同じくして、皆は既に帰り、朝になってもまだ寝ていた。そんな中、ムルルは木彫りの兎を眺めていた。
「いよいよ、お兄ちゃんと戦うのか……。勝てるのかな、こんな僕たちで」
と独り言を先程の兎を撫でながら呟いていた。その時、後ろから誰かが抱きついて来た。スインだった。
「ふえっ」
ムルルの耳がピンと立った。
「びっくりした?ちゃんと寝やんとソウマ君みたいになんで?」
(それはちょっとソウマさんに失礼な気がする……)
「大丈夫。僕たち兄弟はショートスリーパーなんだ」
スインはムルルに抱きついたまま、頭を撫でる。
「そうかもしれやんけど、こうされたら眠なるんちゃう?」
すぐにムルルの目は半開きになり、次の瞬間には寝息をたて始めた。スインはムルルをベッドに運び、布団を掛けた。
「よう寝てや」
スインは部屋を出て階段をおり、リビングへやって来た。
「ほな、始めよか、作戦会議」
また、ストキは朝のコーヒーブレイクを楽しんでいた。
「トルキを倒し、エヴェルへ……、ですか。私たちの知らない所で、人の物語はどんどん進んでいくんですね」
その隣にはクラキがいたが、まだベッドで眠っていた。
「聞いてないと思いますが、あなたの作った戦闘集団は、着実に強くなっています。あなたは中々に良い選択をしましたね」
ストキは残りのコーヒーを飲み終えると、立ち上がって電話を掛けた。
その電話はライトに繋がった。
『もしもし。お時間よろしいでしょうか?』
「あっ、はい」
『トルキを倒したそうですが、あなたは結局殺さなかった様ですね。実にあなたらしい』
「ええと、ありがとう、ございます?」
『エヴェルは今までの相手とは違う技を使うと聞いています。詳しくは分かりませんが、お気を付けください』
「はい!」
『では。ご健闘をお祈りしております』
ストキは電話を切り、ライトの方にはツーツーと音がした。
「ライト、終わったか?」
フウワの声でライトは現実に引き戻された。作戦会議も佳境に入っていた。




