表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
155/185

第五部 壁を越さずとも

 イネイは遠くにいた為爆発に巻き込まれずに済み、偶然ライトを見かけた。ロルは相棒を探しに去っていった後だった。イネイは近づいた。

「ライトさ……」

イネイは目に飛び込んで来た景色のせいで言葉が継げなかった。穏やかに眠るトルキと、その真反対に震えながら涙を流しているライト。イネイはすぐに駆け寄った。

「大丈夫ですか!」

イネイはライトの肩を持とうとしたが、ライトは正面からイネイに倒れ込んだ。イネイは慌てて受け止めたが、まるで抱擁の様だった。

「へっ……」

顔が真っ青なライトとうって変わって、イネイの顔は真っ赤になった。

(今はそんな場合じゃなかった!)

イネイはライトの頭を撫でた。

「ぼ、僕っ」

ライトは泣きながらイネイに告げた。

「もう、戦士、続け、られない……かも」


 それは、三十分前の出来事だった。トルキはライトに再び話しかけた。

「良いのか?親の仇は」

ライトは膝をついた。冷たい汗が頬を伝った。

「何、だよっ、それ」

「言葉の通りだ」

「ばっかじゃ、ないの」

「生憎頭は打っていない」

「うっ……」

ライトはそのままうずくまった。

(なんか、吐き気がっ……)

ライトはそのまま動かなくなった。トルキは指先さえ動かさなかった。

「そうか……。だが、俺がまたお前に会う事は……おそらく無い」

(僕には、そんな壁、越せない……。越したくない……)

ライトには、トルキの言葉が聞こえていなかった。そのまま、トルキは眠ってしまい、ライトは一人で悶々と考え出してしまったのだった。


 「そう、ですか」

イネイはライトのおぼつかない説明を、ゆっくりゆっくり聞いていた。イネイはライトを抱きしめた。

「“勇者”と呼ばれたベルナラ。“勝利の女神”と呼ばれたエレン。この二人の共通点は、なんだと思いますか?」

ライトは答えなかったが、イネイは続けた。

「正解は、『人殺しである事』です。でもね、ライトさん」

イネイはライトを解放し、目を合わせた。

「私がライトさんになって欲しいのは、勇者じゃありません」

イネイはライトの両頬を包んだ。

「人殺しの出来ない、優しすぎる戦士……かつて誰も見たことの無い形の英雄です」

ライトの目に光が戻った。それと同時に、

「イネイ……ちょっと、近いっていうか……」

と顔を赤くしながら言った。イネイは時間差で顔を真っ赤にした。

「ああっ、なんてことを!申し訳ございません!一生の不覚!」

「あ、ええと、でも……ありがとう」

ライトはそう言って笑った。いつもと違う、控えめな笑顔で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ