第五部 忘れられぬ出会い
何年か前。家を出て、とにかく走り続けたクン改めソウマは、今山に辿り着いた。ソウマはその山に登山道がある事など考えもせず、木々の隙間を縫ってどんどん登って行った。
「……何これ」
ソウマは巨大な岩を見つけた。その刹那、狼が飛び掛かって来た。
「うわっ!」
ソウマは咄嗟に右腕で顔を覆い、狼にそこを噛みつかれた。牙は右腕にしっかりと食い込み、血が絶え間なく流れていた。
「うっ」
ソウマはその場に倒れた。既に体力の限界を迎えようとしていたソウマにとって、それは決定打となってしまった。
「ウォーン」
狼の鳴き声は山中に響いた。狼はソウマを引きずって行こうとしたが、ソウマが咳き込み始めた。
「ガル……」
狼はトドメを刺そうと顔をソウマの首元に近付けたが、ソウマは狼の頭を撫でた。
「いい子だね……ずっと、ここを守ってるんでしょ?」
「ガル?」
狼は素早く跳び退いた。
「ロルって言った?」
ソウマは謎の聞き間違いをした。最も、疲労が極限に溜まっていたのも原因と言えるだろうが。
「ロル君。僕を食べるの?」
「グルルル……」
狼、ロルは動かなかった。そうしているうちに、ライオンや小動物たちがやって来た。
「今回も、呆気ない人生だったな……」
ソウマは静かに目を閉じた。
しかし、ソウマは目を覚ました。知らない建物の中で。動物たちが何か話していた。もちろんソウマには分からないが。
『何のつもりだ、狼野郎』
ライオンはロルを睨んだ。
『あいつは中々面白いやもしれぬ』
『だが、あいつは人間だぞ!チカラの事がバレても良いのか!』
ライオンはロルに今にも飛び掛かりそうな剣幕で言った。
『我々は、二十年も生永えられぬ』
ライオンは表情を真顔に戻した。
『だが、人間はそこそこ生きるだろう。それに』
ロルは傷ついた兎を鼻先で示した。
『我々の傷を癒せるかもしれぬ』
ライオンは何も言わずに去っていった。丁度その時、ソウマが現れた。
「ロル君。なんで僕を生かしたの?」
「グルル」
ロルは先程の兎に歩み寄った。
「成程ね。上手くできるか分からないけど、やってみるよ」
緑の光が兎を包むと、兎はぴょんぴょん跳ねて山を降りて行った。ロルは嬉しそうに手を振るソウマの横顔を見ていた。
『嫌な予感がする』
ソウマがスインを見つける十分前、今山にいたロルはソウマの元へ走り出した。
『今となっては、面白がられているのはこちら側の様な気がするが……どうにも放っておけんのが我ながら可笑しいな』
ロルは口角を上げた。




