第四部 別人格は傲慢で
倒れたままのソウマに、足音が近づいて来た。
「楽で助かったわ。今すぐ、降参する事ね。エヴェル様はそうすれば命だけは助けてあげるってさ。ま、一生奴隷のままだろうけどね」
随分と話した後、女はソウマの顔を覗き込んだ。
(そんなの、断るに決まってる……でも、どうやって戦おうかな……皆んなに迷惑はかけたくないし……)
ソウマは思い悩んでいた。しかし。
(まずは木を、ぬ、け……)
そこで意識は途切れた。
「馬鹿馬鹿しい」
「は?」
「お前ごときがこのソウマ様に、交渉を持ちかけるなど一万年早い!」
ソウマは木をへし折って立ち上がると、同時に女を一瞬で倒してしまった。
「身の程をわきまえろ、愚民が」
そのまま、キシュウの所へ向かった。キセキはソウマを見て、
「君、本当にさっきの?」
と尋ねたが、ソウマはキシュウしか見ていなかった。
「ふん。随分と偉そうな立ち振舞いだな」
キシュウはソウマを見下ろした。
「当然だ。俺はソウマ様だからな!お前から来てみろ。先程の言動を後悔させてやろう」
キシュウは巨大な火の矢を放ったが、ソウマの防御技はそれを最も簡単に防いだ。
「この調子では、技も使いそうにないな」
ソウマは軽く走るだけで一気に距離を詰め、普通の蹴りでキシュウを空高く突き上げた。
「フィニッシュはお前にくれてやろう、原石」
キセキは迷いなくキシュウにトドメを刺した。
ソウマが突っ立っている横で、キセキはテキパキと二人を縛った。
「ありがとう、ございました」
キセキの言葉に、ソウマはニッと笑って見せたが、すぐに辺りを見回し始めた。
「あれ?僕はいった、い」
ソウマはふらっとよろけたが、なんとか立ち直った。その時、丁度、
「「ソウマー!」」
という声がし、フウワとエントが駆け寄って来た。それを見たソウマは、意識を手放したのだった。
フォニックスが到着する頃には、キセキは姿を消していた。
「お礼を言おうと思ったのに……」
項垂れるムルルを、スインが宥めた。
「また会えるやろ。きっと。名前は?」
「ええと、キセキ、だったかな」
アインは固まった。
「?」
「えー!名前の最初と最後両方にキがつくのは王族の中でも屈指の強さを持つ人だよ?」
今度はムルルが固まったが、すぐに、
「そういえば、ソウマさん、大丈夫なのかな?」
と思い直した。
「じゃあ、私たちも行こっか。病院」
気付けば、もう夕暮れ時だった。長く長く伸びた三人の影は、重ならずにそのまま伸びていった。冷たい冬の風は、等しく三人の髪を揺らした。




