プロローグ 日常は儚い
蝉の声が忙しなく聞こえる、八月某日。フォニックスたちはいつも通り任務に行っていた。ブラックス関連のものらしく、カルロウも付いて行っていた。そんな訳で、本拠地にはコウ、イネイ、ツーハの三人しかおらず、イネイはツーハの勉強を教えていた。そんな、ありふれた日常だった筈なのに―
フォニックスたちは、任務を午前中に終え、帰路についていた。
「今日のは簡単で助かったな」
エントはくせっ毛を揺らしながらライトに話しかける。
「まぁ、報酬はあんまし期待できないかもだけどなー」
ライトは後頭部で手を組みながら僅かに自分より低い弟の言葉に応えた。エントも、そっかぁ、と口を尖らせた。
「良いじゃねぇか。最初の頃よりも格段に稼ぎはある訳だし」
フウワは兄弟を若干見下ろし気味に言った。
「でもよぉ」
とエントが不満の声をあげた直後、スインの携帯が電話の着信音を鳴らした。
「イネイちゃんからや」
普通に電話に出た。そして、相手の第一声を聞いた途端、目を見開いてスピーカーをオンにした。
『フォニックスの皆さん、こんにちは。私はブラックスの幹部、ミレイよ。この電話はイネイって人の携帯からよ。安心して、彼女はまだ生きてる。今から住所を送るから、早いうちにここに来る事ね。無駄だと思うけど』
余裕たっぷりの、しっとりとした声だった。その後は、ツーツーと音が鳴るだけだった。
「あっ、これが住所みたいや」
皆がこぞって見る。
「おそらく、猫の国だろう」
フウワが上ずった声で言うと、アインは即座に電話した。数秒の後、アインが
「ギーヨ様、すぐに来てくれるって」
皆は暑さとは別の理由で汗をかいていた。
「コウとツーハちゃんは、無事……だよね?」
とソウマが零したその時、ギーヨが姿を現した。
「大丈夫です。本拠地にいたそうです。病院にもう到着している様ですし。さぁ、早く」
ギーヨは機関銃のように捲し立てると、皆を瞬間移動させた。
目の前には大きな建物があったが、廃墟の様だった。
「あそこに、イネイが……」
ライトは全速力で走り出した。
「ちょっ、おい!ライト!」
そんなフウワの呼び掛けも全くの無意味だった。
「早く追いかけましょう!どっちしろ、私たちも行くんですよね!だったら早い方が良い!」
カルロウがそう言いながら走って行くと、皆も全力でそれに付いて行った。そして、大きな建物に入ってすぐの部屋を覗くと、そこにミレイと思しき人物がいて、ライトとカルロウに話しかけていたのだった。




