第四部 戻って来た日常
その日はバタバタしたものの、翌日の昼になればいつも通りの生活に戻っていた。
「肩、大丈夫なのか?」
昼食前にコウがスインに尋ねると、スインは振り返った。
「とりあえず安静にしてって言われたからなぁ。左手でもスプーンぐらいは持てるで?」
コウはそうか、と言ったが、何処からかアインがやって来て、
「姉さん!嘘つかないの!」
とスインを叱った。
「……やって……、流石にみんなの前でアインに食べさしてもらうんは恥ずいやん……」
「もうっ。今更何よ!姉さんはいっっっっつもぽけ〜としてて、勝手にどっか行って、お風呂で滑って転びかけて!介護でもしてる気分だよ!」
スインはぽてんと首を傾げた。コウは思い出した様にサラダを作りに行った。
「そやったっけ?」
「そういう所!認知症?」
その言葉には流石のスインも焦った様だった。
「ふえっ?に、に、」
そして、その場に倒れて半透明なスインが本物のスインから抜け出し、天へ吸い込まれようとしていた。
「姉さーーん!!!」
その時、コウが
「お前ら飯だぞー!来ないと俺がベーコン食っちまうぞ!」
と言うと、スルリと戻り、食卓へ走って行った。
「……相変わらずだな……」
昼食後、皆が中庭で特訓しているのを、イネイは皿洗いをしながらこっそり見ていた。時折技が思わぬ方向へ向かいヒヤッとする事があるが、ソウマが全力で建物を守っていた。
(だから、ソウマさんはいつも怪我をしているんですね……)
イネイは彼らのやり取りを見守りながら微笑んでいた。すると、背後から、
「こっから中庭見えるんやー」
という声がし、イネイはビクンと跳び上がって驚いた。
「スインさん!」
スインは当然特訓をしていなかった。
「いや、すんごい暇なんよ。ごめんな、邪魔して」
「いえいえ。図書室に本がありますよ?」
スインはうーん、と悩んでいた。
「……せやな。今日アインに認知症やないんかて言われたしなぁ」
「認知症……」
「ボケとらせんのに」
「今からボケたら大変ですよー」
「おすすめあるん?」
イネイは少し考えてから答えた。
「そういえば、昨日扉に関わったそうですね。だったら、それ関連の本を読んでみてはどうでしょうか?確か、題名は、『狭間の世界1 〜創造編〜』だったと思います」
「ありがとーなー。読んでみるわー」
スインが去ると、イネイは丁度皿洗いが終わった。
「よしっ、次はリビングの掃除ですね!」
(毛の色が違うので、誰がどこにいたのかよく分かるのが地味に楽しいんですよねこれ……)




