第二部 狭間の世界
「……報告によると、ここなんですが……」
ギーヨは眉間に皺を寄せる。
「分かんないんですか?」
ライトはキョロキョロと辺りを見回しながら尋ねる。
「実は、今回の対象は人では無いんですよ」
ギーヨは地図を広げながら言う。すると、フォニックスの皆は目を丸くした。
「聞いた事はないかもしれませんが……“狭間の世界”への扉です」
反応は目を丸くしたまま首を傾げる、納得した様に頷く、視線を地面に落とすなど、人それぞれだった。
「狭間の世界。言い換えれば、死者の世界です。人間、我々関係なく行く者がいる事からそう呼ばれているそうです。そして、その扉は通常ありません」
ギーヨは地図を見つめ直す。
「しかし、何の前触れも無く何とも無い様な所に発生する事があるのです。厄介な事に、妖気では感知できません。扉や死者たちは”霊気“によって活動しているそうです」
「じゃあ、目撃したのは霊気を感じ取れる人なんですか?」
ライトはまた尋ねるが、ギーヨは首を横に振った。
「いえ、近隣の住民だそうです。既に避難を呼びかけていますが、一人部下を置いて経過観察をしていた所、通常では考えられない程の速度で扉の形を成し、開こうとしているとの報告が来ました」
ギーヨは地図を折り畳む。
「これには裏があると思いまして。そこで、フォニックスの皆さんにお願いしたいと思いました」
「場所、分かったんですか?」
「はい。すみません、お手数おかけしました」
皆は、いえいえ、と言いながらギーヨについて行った。
「ここです」
目の前には、扉というより西洋の城の門の様な物がそびえ立っていた。そして、確かに僅かに動いており、炎の様に揺らめく何かが漏れ出ていた。
「確か、この辺りに居るはずですが……」
すると、ギーヨの目の前に何者かが木から飛び降りて来、跪いていた。
「お疲れ様です、キセキさん」
猫かと思いきや、狐だった。しかし、皆は思わず後退りをしていた。
(すげぇ妖気……。一体何者なんだ?)
名前の最初か最後に「キ」が付くのは王族の証であるが、最初にも最後にもそれが付いているのは王族の中でもとりわけ強いものである。
「キセキさん。大丈夫ですから、どうかお顔を上げて下さい」
「いえ、自分の様な王族の端くれは、ギーヨ様を見下ろすなど許されません」
しかし、忠義深さは人一倍の様だった。
「紹介します。狐の国王、キクラさんの叔父にあたる、キセキさんです。普段は監獄で働かれていますが、今回の役割を申し出て下さいました」