プロローグ 謎は深まるばかり
スインは電話を切ると、フェルクを抱きしめた。エントが目覚める様子は無いが、もし誰かに見られていたらかなりの騒ぎになりそうなものだ。しかし、スインはにっこり微笑んだ後真面目な顔になった。
『フェル君、フェル君』
フェルクの頭の中で、そんな声が響く。フェルクも頭の中で返した。
『何、その呼び方』
『あはは、つい、癖で。それより、そろそろ素直にならん?自分が一番分かっとるんちゃう?』
『僕の何を知ってるのさ』
『全部。あそこで、ぜぇんぶ、見たんやで』
『お前何者だ?』
『私は捨てられただけやで。でもな、やっぱり、普通がええわ。気楽やし』
『……六番?』
『おー、凄いやん。合っとんで、十番さん』
『……』
『どないする?』
『帰りたい、帰りたいけど、逃げられるの……?』
『安心しぃ。私の言う通りにしてみ。上手くいくから』
エントが目を覚ます頃には、知らない翼を持った二人とギーヨがやって来て、本拠地まで送り届けて貰った頃だった。
「エン兄、ドジしたの?」
「ま、まぁ、そうだな、ああ」
(スインは一体なんて言ったんだ?)
「どじー?」
テルルは首をめいいっぱい傾げた。
「テルちゃんは知らんくってもええでー」
とスインは言っていたが、アインに着替えを投げつけられた。
「早く着替えて!風邪引くでしょ!全く、自分の事となるとルーズなんだからー」
アインがムッと頬を膨らませると、スインは自分の部屋へ言った。
「エントもね!」
「はぁい」
エントもまた、自室へ向かった。
「こいつおねむ?」
とツーハがフェルクを指差すと、
「こいつじゃなくて、従兄弟のフェルクだ」
とライトが訂正した。
「イトコノフェルク?長いなまえ」
しかし、少し勘違いを起こしてしまった様だ。ライトがさらに訂正を加えている間に、フェルクはむくりと起き上がった。
「ん、あ、おねしょ小僧」
ライトは、どわー!、と慌てた。
「ライ兄おねしょしたの?」
「俺がツーハよりも小さい時の話な!やめろよそれ!」
「知んねぇよ、それより……」
フェルクは素早くライトに近付き、耳打ちした。
「なぁ、あの美人誰?」
「アインの事か?」
(……ブレねぇな、フェルク……)
そう、フェルクはそういう人物であった。そんな中、ギーヨは袋から何かを取り出した。独特の、喉を焦がす様な甘い匂い……キャラメルだった。
「皆さん、キャラメルポップコーンはいかがですか?」
ツーハは喜びのあまり飛び上がったが、地上を見ると、同じ様な者がもう一人いた。フェルクである。